7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (2024)

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-06-28

(45)【発行日】2024-07-08

(54)【発明の名称】改変された抗体可変領域を含む抗原結合分子

(51)【国際特許分類】

C07K 16/46 20060101AFI20240701BHJP

A61K 39/395 20060101ALI20240701BHJP

A61P 35/00 20060101ALI20240701BHJP

C07K 16/24 20060101ALI20240701BHJP

C07K 16/28 20060101ALI20240701BHJP

C07K 16/30 20060101ALI20240701BHJP

C07K 16/42 20060101ALI20240701BHJP

C12P 21/08 20060101ALI20240701BHJP

【FI】

C07K16/46

A61K39/395 A

A61P35/00

C07K16/24

C07K16/28 ZNA

C07K16/30

C07K16/42

C12P21/08

【請求項の数】11

(21)【出願番号】P 2020141381

(22)【出願日】2020-08-25

(62)【分割の表示】P 2015546719の分割

【原出願日】2014-11-11

(65)【公開番号】P2020196741

(43)【公開日】2020-12-10

【審査請求日】2020-09-23

【審判番号】

【審判請求日】2022-10-20

(31)【優先権主張番号】P 2013232803

(32)【優先日】2013-11-11

(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP

(73)【特許権者】

【識別番号】000003311

【氏名又は名称】中外製薬株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100102978

【弁理士】

【氏名又は名称】清水 初志

(74)【代理人】

【識別番号】100160923

【弁理士】

【氏名又は名称】山口 裕孝

(74)【代理人】

【識別番号】100119507

【弁理士】

【氏名又は名称】刑部 俊

(74)【代理人】

【識別番号】100142929

【弁理士】

【氏名又は名称】井上 隆一

(74)【代理人】

【識別番号】100148699

【弁理士】

【氏名又は名称】佐藤 利光

(74)【代理人】

【識別番号】100188433

【弁理士】

【氏名又は名称】梅村 幸輔

(74)【代理人】

【識別番号】100128048

【弁理士】

【氏名又は名称】新見 浩一

(74)【代理人】

【識別番号】100129506

【弁理士】

【氏名又は名称】小林 智彦

(74)【代理人】

【識別番号】100205707

【弁理士】

【氏名又は名称】小寺 秀紀

(74)【代理人】

【識別番号】100114340

【弁理士】

【氏名又は名称】大関 雅人

(74)【代理人】

【識別番号】100214396

【弁理士】

【氏名又は名称】塩田 真紀

(74)【代理人】

【識別番号】100121072

【弁理士】

【氏名又は名称】川本 和弥

(72)【発明者】

【氏名】井川 智之

(72)【発明者】

【氏名】門野 正次郎

(72)【発明者】

【氏名】廣庭 奈緒香

(72)【発明者】

【氏名】櫻井 実香

【合議体】

【審判長】長井 啓子

【審判官】上條 肇

【審判官】小金井 悟

(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)

C12N 15/00 - 15/90

C07K 16/00 - 16/46

Pubmed

CAPlus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)

JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)

Genbank/EMBL/DDBJ/Geneseq

UniProt/Geneseq

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

以下を含む抗原結合分子:
(a) CD3である第1の抗原に結合することができ、かつ、非CD3分子である第2の抗原に結合することができる抗体可変領域;
ここで、該抗体可変領域は、該第1の抗原および該第2の抗原に対する結合領域を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
前記抗体重鎖可変ドメインは、配列番号13に記載の配列をテンプレート配列として少なくとも1つのアミノ酸改変を有し、

前記アミノ酸改変は、前記テンプレート配列の前記重鎖可変ドメインのKabatナンバリング52aから52cの間、72と73との間、または99から100aの間のいずれかへの該第2の抗原に結合するアミノ酸配列の挿入を含み、

;および
(b) 該第1の抗原および該第2の抗原とは異なる第3の抗原に結合する抗体可変領域。

【請求項2】

請求項1(a)の前記抗体可変領域が、第2の抗原と結合しているときは第1の抗原と結合せず、第1の抗原と結合しているときは第2の抗原と結合しない、請求項1に記載の抗原結合分子。

【請求項3】

第1の抗原に対する結合領域と第2の抗原に対する結合領域の両方が、同一の抗体可変領域中に位置している、請求項1または2に記載の抗原結合分子。

【請求項4】

挿入されるアミノ酸の数が1~25である、請求項3に記載の抗原結合分子。

【請求項5】

挿入されるアミノ酸の数が少なくとも3である、請求項4に記載の抗原結合分子。

【請求項6】

抗体Fc領域をさらに含む、請求項1~

のいずれか一項に記載の抗原結合分子。

【請求項7】

前記Fc領域が、天然型ヒトIgG1抗体のFc領域と比較して、FcγRに対する低下した結合活性を有するFc領域である、請求項

に記載の抗原結合分子。

【請求項8】

多重特異性抗体である、請求項1~

のいずれか一項に記載の抗原結合分子。

【請求項9】

前記第2の抗原が、FcγR、TLR、レクチン、IgA、免疫チェックポイント分子、TNFスーパーファミリー分子、TNFRスーパーファミリー分子又はNKレセプター分子である、請求項1~

のいずれか一項に記載の抗原結合分子。

【請求項10】

前記第3の抗原が、がん組織特異的に発現している分子である、請求項1~

のいずれか一項に記載の抗原結合分子。

【請求項11】

請求項1~

10

のいずれか一項に記載の抗原結合分子及び医学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、異なる2つの抗原(第1の抗原及び第2の抗原)に結合することができるが、両抗原に同時には結合しない抗体の可変領域と、これらの抗原とは異なる第3の抗原に結合する抗体の可変領域とを含む抗原結合分子、該抗原結合分子を含む医薬組成物、ならびに、それらの製造方法を提供する。

【背景技術】

【0002】

抗体は血漿中での安定性が高く、副作用が少ないことから医薬品として注目されている(Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073-1078(非特許文献1)およびEur J Pharm Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396(非特許文献2))。抗体は、抗原に結合する作用、アゴニスト作用やアンタゴニスト作用だけでなく、ADCC(Antibody Dependent Cytotoxicity:抗体依存性障害活性), ADCP(Antibody Dependent Cell phagocytosis:抗体依存性細胞鈍食作用), CDC(補体依存性細胞傷害活性)といったエフェクター細胞による細胞障害活性(エフェクター機能とも言う)を誘導する。特にIgG1サブクラスの抗体がエフェクター機能をがん細胞に対して示すため、がん領域において多数の抗体医薬品が開発されている。

【0003】

抗体がADCC, ADCP, CDCを発現するためには、抗体のFc領域と、NK細胞やマクロファージ等のエフェクター細胞に存在する抗体レセプター(FcγR)および各種補体成分が結合することが必須である。ヒトでは、FcγRのタンパク質ファミリーとして、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIbのアイソフォームが報告されており、それぞれのアロタイプも報告されている(Immunol. Lett. (2002) 82, 57-65(非特許文献3))。これらのアイソフォームのうち、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIIaは細胞内ドメインにITAM(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motif)と呼ばれるドメインを持ち、活性化シグナルを伝達する。一方で、FcγRIIbのみが細胞内ドメインにITIM (Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motif)と呼ばれるドメインを持ち、抑制シグナルを伝達する。いずれのFcγRも、免疫複合体などによってクロスリンクされることで、シグナルを伝達することが知られている(Nat. Rev. Immunol. (2008) 8, 34-47(非特許文献4))。実際に、抗体ががん細胞にエフェクター機能を発揮するときは、がん細胞膜上に複数個結合している抗体のFc領域でエフェクター細胞膜上のFcγRがクラスターとなり、エフェクター細胞で活性化シグナルが伝達される。その結果、殺細胞効果が発揮されるが、このときFcγRのクロスリンクはがん細胞近傍に存在するエフェクター細胞に限られることから、免疫の活性化はがん細胞局所でのみ起こることを示している。(Ann. Rev. Immunol. (1988). 6. 251-81(非特許文献5))

【0004】

天然型の免疫グロブリンは、可変領域で抗原と結合し、定常領域でFcγR、FcRn、FcαR、FcεRといったレセプターや補体と結合する。IgGのFc領域で相互作用する結合分子のひとつであるFcRnは、抗体の重鎖それぞれに1分子ずつ結合するため、IgG型の抗体1分子に対して2分子のFcRnが結合することが報告されている。しかし、FcRn等とは異なり、FcγRは抗体のヒンジ領域およびCH2ドメインで相互作用し、IgG型の抗体1分子に対して1分子のみ結合する(J. Bio. Chem., (20001) 276, 16469-16477)。また、FcγRと抗体のFc領域の結合には、抗体のヒンジ領域及びCH2ドメイン内のいくつかのアミノ酸残基およびCH2ドメインに結合しているEUナンバリング297番目のAsnに付加される糖鎖が重要であることが示されている(Chem. Immunol. (1997), 65, 88-110(非特許文献6)、Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1098-1104(非特許文献7)、Immunol. (1995) 86, 319-324(非特許文献8))。この結合箇所を中心に、これまでに様々なFcγR結合特性を持つFc領域の変異体が研究され、活性化FcγRに対するより高い結合活性を有するFc領域変異体が得られている(WO2000/042072(特許文献1)、WO2006/019447(特許文献2))。例えば、Lazarらは、ヒトIgG1のEUナンバリング239番目のSer、330のAla、332のIleをそれぞれAsn、Leu、Gluに置換することによって、ヒトFcγRIIIa(V158)に対するヒトIgG1の結合活性を約370倍まで増加させることに成功している(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. (2006) 103, 4005-4010(非特許文献9)、WO2006/019447(特許文献2))。この改変体は野生型と比べて、FcγRIIIaとFcγIIbに対する結合活性の比(A/I比)が約9倍になっている。また、ShinkawaらはEUナンバリング297番目のAsnに付加される糖鎖のフコースを欠損させることによって、FcγRIIIaに対する結合活性を約100倍まで増加させることに成功している(J. Biol. Chem. (2003) 278, 3466-3473(非特許文献10))。これらの方法によって、天然型ヒトIgG1と比較してヒトIgG1のADCC活性を大幅に向上させることが可能である。

【0005】

通常の天然型のIgG型の抗体は、その可変領域(Fab)により1つエピトープを認識して結合することから、1つの抗原にしか結合することが出来ない。一方で、がんや炎症においては多種類のタンパク質が関与することが知られており、タンパク質同士がクロストークしていることがある。たとえば免疫疾患では、いくつかの炎症性サイトカイン(TNF, IL1やIL6)が関与していることが知られている(Nat. Biotech., (2011) 28, 502-10(非特許文献11))。またがんにおいて薬剤耐性を獲得するメカニズムのひとつとして、他のレセプターが活性化することが知られている(Endocr Relat Cancer (2006) 13, 45-51(非特許文献12))。このような場合、1つのエピトープを認識する通常の抗体では、複数のタンパク質を阻害することが出来ない。

【0006】

複数のターゲットを阻害する分子として、1分子で2種類以上の抗原と結合する抗体(Bispecific抗体という)が研究されている。天然型のIgG型の抗体を改良することにより、異なる2つの抗原(第1の抗原と第2の抗原)への結合活性を付与することが可能である(MAbs. (2012) Mar 1, 4(2))。そのため、2種類以上の抗原を1つの分子で中和する作用だけでなく、細胞障害活性をもつ細胞とがん細胞をクロスリンクすることで抗腫瘍活性を高める作用がある。これまでにBispecific抗体の分子形として、抗体のN末端やC末端に抗原結合部位を付加した分子(DVD-IgやscFv-IgG)や抗体の2つのFab領域が異なる配列を有する分子(共通L鎖Bispecific抗体およびハイブリッドハイブリドーマ)、ひとつのFab領域が2つの抗原を認識する分子(Two-in-one IgG)、CH3領域のループ部位を新たな抗原結合部位とした分子(Fcab)が報告されている(Nat. Rev. (2010), 10, 301-316(非特許文献13)、Peds(2010), 23(4), 289-297(非特許文献14))。いずれのBispecific抗体もFc領域でFcγRと相互作用することから、抗体のエフェクター機能は保存されている。したがって、Bispecific抗体が認識するいずれの抗原に対しても、FcγRと同時に結合し、抗原を発現している細胞に対してADCC活性を示す。

【0007】

Bispecific抗体が認識する抗原がいずれもがんに特異的に発現している抗原であれば、いずれの抗原に結合してもがん細胞に対して細胞障害活性を示すため、一つの抗原を認識する通常の抗体医薬品よりも効率的な抗がん効果が期待できる。しかし、Bispecific抗体が認識する抗原のうちいずれか一つの抗原でも正常組織に発現している場合や免疫細胞に発現する細胞である場合、FcγRとのクロスリンクによって正常組織の障害やサイトカインの放出が起こる(J. Immunol. (1999) Aug 1, 163(3), 1246-52(非特許文献15))。その結果、強い副作用を誘導してしまう。

【0008】

例えば、T細胞に発現しているタンパク質とがん細胞に発現しているタンパク質(がん抗原)を認識するBispecific抗体として、Catumaxomabが知られている。Catumaxomabは、2つのFabでそれぞれ癌抗原(EpCAM)とT細胞に発現しているCD3ε鎖に結合する。Catumaxomabは癌抗原とCD3εが同時に結合することによって、T細胞による細胞障害活性を誘導し、がん抗原とFcγRが同時に結合することによってNK細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞による細胞障害活性を誘導する。2つの細胞障害活性を利用することによりCatumaxomabは腹腔内投与によって悪性腹水症で高い治療効果が示されており、欧州で承認されている。(Cancer Treat Rev. (2010) Oct 36(6), 458-67(非特許文献16))さらにCatumaxomab投与によって癌細胞に対して反応する抗体が出現した例が報告され、獲得免疫が誘導されることが明らかになった(Future Oncol. (2012) Jan 8(1), 73-85(非特許文献17))。この結果からT細胞による細胞障害活性と共に、FcγRを介したNK細胞やマクロファージなどの細胞による作用の両者を持つ抗体(特にtrifunctional抗体と呼ぶ)は強い抗腫瘍効果と獲得免疫誘導が期待できるため注目されている。

【0009】

しかし、trifunctional抗体はがん抗原が存在しない場合でも、CD3εとFcγRが同時に結合するため、がん細胞が存在しない環境でもCD3εを発現しているT細胞とFcγRを発現している細胞がクロスリンクされ、各種サイトカインが大量に産生される。このようながん抗原非依存的な各種サイトカインの産生誘導により、trifunctional抗体の投与は現状、腹腔内に限定されており(Cancer Treat Rev. 2010 Oct 36(6), 458-67(非特許文献16))、重篤なサイトカインストーム様の副作用により全身投与は極めて困難である(Cancer Immunol Immunother. 2007 Sep;56(9):1397-406(非特許文献18))。
また、従来技術のBispecific抗体では、一つ目の抗原であるがん抗原(EpCAM)と二つ目の抗原であるCD3εの両方の抗原がFcγRと同時に結合し得るため、FcγRと2つ目の抗原のCD3εの同時結合によるこのような副作用を回避することは分子構造的に不可能である。

【0010】

近年、FcγRに対する結合活性を低減させたFc領域を用いることで、副作用を回避しつつ、T細胞による細胞傷害活性を起こすような改良型抗体が提供されている(WO2012/073985)。
しかしながら、このような抗体でも、分子構造的に、がん抗原に結合しつつCD3εとFcγRの2つの免疫レセプターに作用することはできない。
これまで、副作用を回避しつつ、癌抗原特異的に、T細胞による細胞障害活性とT細胞以外の細胞による細胞傷害活性の両方を作用させることのできる抗体は知られていない。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0011】

【文献】WO2000/042072

【文献】WO2006/019447

【非特許文献】

【0012】

【文献】Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073-1078

【文献】Eur J Pharm Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396

【文献】Immunol. Lett. (2002) 82, 57-65

【文献】Nat. Rev. Immunol. (2008) 8, 34-47

【文献】Ann. Rev. Immunol. (1988). 6. 251-81

【文献】Chem. Immunol. (1997), 65, 88-110

【文献】Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1098-1104

【文献】Immunol. (1995) 86, 319-324

【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. (2006) 103, 4005-4010

【文献】J. Biol. Chem. (2003) 278, 3466-3473

【文献】Nat. Biotech., (2011) 28, 502-10

【文献】Endocr Relat Cancer (2006) 13, 45-51

【文献】Nat. Rev. (2010), 10, 301-316

【文献】Peds(2010), 23(4), 289-297

【文献】J. Immunol. (1999) Aug 1, 163(3), 1246-52

【文献】Cancer Treat Rev. (2010) Oct 36(6), 458-67

【文献】Future Oncol. (2012) Jan 8(1), 73-85

【文献】Cancer Immunol Immunother. 2007 Sep;56(9):1397-406

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0013】

本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その課題は、1つの可変領域が、異なる2つの抗原(第1の抗原と第2の抗原)に対して結合活性を有するが、これらの抗原に同時には結合しない抗体の可変領域と、これらの抗原とは異なる抗原(第3の抗原)に結合する可変領域とを含む抗原結合分子、該抗原結合分子を含む医薬組成物、並びに該抗原結合分子の製造方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0014】

本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、1つの可変領域が、異なる2つの抗原(第1の抗原と第2の抗原)に対して結合活性を有するが、これらの抗原に同時には結合しない抗体の可変領域と、これらの抗原とは異なる抗原(第3の抗原)に結合する可変領域とを含む抗原結合分子を作製し、当該抗原結合分子の3つの異なる抗原に対する結合活性を利用することで、抗原結合分子により生じる活性を増強させることに成功した。さらに、これまでの多重特異性抗原結合分子を医薬品として利用した場合に、副作用の原因となると考えられる、異なる細胞上で発現している抗原と結合することによって生じる当該異なる細胞間の架橋を回避することが可能な抗原結合分子を作製することに成功した。

【0015】

より具体的には、本発明は、以下に関する。
〔1〕第1の抗原および該第1の抗原とは異なる第2の抗原に結合することができるが、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない、抗体の可変領域、並びに
該第1の抗原および第2の抗原とは異なる第3の抗原に結合する可変領域
を含む、抗原結合分子。
〔2〕第1の抗原および該第1の抗原とは異なる第2の抗原に結合することができるが、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しないように、重鎖可変領域のアミノ酸が改変された抗体の可変領域を含む、抗原結合分子。
〔3〕第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域が、それぞれ異なる細胞上で発現している第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域である、〔1〕又は〔2〕に記載の抗原結合分子。
〔4〕さらに、抗体のFc領域を含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔5〕Fc領域のFcγRに対する結合活性が、天然型ヒトIgG1抗体のFc領域と比較して低下しているFc領域である、〔4〕に記載の抗原結合分子。
〔6〕多重特異性抗体である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔7〕第1の抗原と第2の抗原に結合することができる抗体の可変領域が、少なくとも1つのアミノ酸の改変が導入されている可変領域である、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔8〕前記改変が、少なくとも1つのアミノ酸の置換又は挿入である、〔7〕に記載の抗原結合分子。
〔9〕前記改変が、第1の抗原に結合する可変領域のアミノ酸配列の一部の、第2の抗原に結合するアミノ酸配列への置換、又は、第1の抗原に結合する可変領域のアミノ酸配列への、第2の抗原に結合するアミノ酸配列の挿入である、〔7〕又は〔8〕に記載の抗原結合分子。
〔10〕挿入されるアミノ酸の数が1~25個である、〔8〕又は〔9〕に記載の抗原結合分子。
〔11〕改変されるアミノ酸が、抗体の可変領域のCDR1、CDR2、CDR3又はFR3領域のアミノ酸である、〔7〕から〔10〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔12〕改変されるアミノ酸が、ループ領域のアミノ酸である、〔7〕から〔11〕のいずかに記載の抗原結合分子。
〔13〕改変されるアミノ酸が、抗体のH鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74及び95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56及び89~97から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸である、〔7〕から〔11〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔14〕第1の抗原又は第2の抗原のいずれか1つが、T細胞表面に特異的に発現している分子であり、他方の抗原が、T細胞又は他の免疫細胞表面に発現している分子である、〔1〕から〔13〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔15〕第1の抗原又は第2の抗原のいずれか1つがCD3であり、他方の抗原がFcγR、TLR、レクチン、IgA、免疫チェックポイント分子、TNFスーパーファミリー分子、TNFRスーパーファミリー分子又はNKレセプター分子である、〔14〕に記載の抗原結合分子。
〔16〕第3の抗原が、がん組織特異的に発現している分子である、〔14〕又は〔15〕に記載の抗原結合分子。
〔17〕〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の抗原結合分子及び医学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物。
〔18〕〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の抗原結合分子を製造する方法であって、工程(i)~(iv)を含む方法:
(i)第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸が改変された抗原結合分子であって、該改変された可変領域のアミノ酸の少なくとも1つが互いに異なる可変領域を含む抗原結合分子のライブラリーを作製する工程、
(ii)作製されたライブラリーの中から、第1の抗原及び第2の抗原に対して結合活性を有するが、該第1の抗原及び第2の抗原と同時には結合しない可変領域を含む抗原結合分子を選択する工程、
(iii)工程(ii)で選択された抗原結合分子の該可変領域をコードする核酸、及び/または、第3の抗原に結合する抗原結合分子の可変領域をコードする核酸とを含む宿主細胞を培養して、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが該第1の抗原と第2の抗原とが同時には結合しない抗体の可変領域、及び/または、第3の抗原に結合する可変領域を含む、抗原結合分子を発現させる工程、並びに
(iv)前記宿主細胞培養物から抗原結合分子を回収する工程。
〔19〕工程(ii)において選択する抗原結合分子に含まれる、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域が、それぞれ異なる細胞上で発現している第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域である、〔18〕に記載の製造方法。
〔20〕工程(iii)において培養する宿主細胞が、抗体のFc領域をコードする核酸をさらに含む、〔18〕又は〔19〕に記載の製造方法。
〔21〕Fc領域のFcγRに対する結合活性が、天然型ヒトIgG1抗体のFc領域と比較して低下しているFc領域である、〔20〕に記載の製造方法。
〔22〕製造する抗原結合分子が多重特異性抗体である、〔18〕から〔21〕のいずれかに記載の製造方法。
〔23〕工程(i)における、可変領域の少なくとも1つの改変されたアミノ酸が、置換又は挿入されたアミノ酸である、〔18〕から〔22〕のいずれかに記載の製造方法。
〔24〕挿入されたアミノ酸の数が1~25個である、〔23〕に記載の製造方法。
〔25〕改変が、抗体の可変領域のCDR1、CDR2、CDR3又はFR3領域のアミノ酸の改変である、〔18〕から〔24〕のいずれかに記載の製造方法。
〔26〕改変が、ループ領域のアミノ酸の改変である、〔18〕から〔25〕のいずれかに記載の製造方法。
〔27〕改変が、抗体のH鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74及び95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56及び89~97から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸の改変である、〔18〕から〔25〕のいずれかに記載の製造方法。
〔28〕第1の抗原又は第2の抗原のいずれか1つが、T細胞表面に特異的に発現している分子であり、他方の抗原が、T細胞又は他の免疫細胞表面に発現している分子である、〔18〕から〔27〕のいずれかに記載の製造方法。
〔29〕第1の抗原又は第2の抗原のいずれか1つがCD3であり、他方の抗原がFcγR、TLR、IgA、レクチン、免疫チェックポイント分子、TNFスーパーファミリー分子、TNFRスーパーファミリー分子又はNKレセプター分子である、〔28〕に記載の製造方法。
〔30〕第3の抗原が、がん組織特異的に発現している分子である、〔28〕又は〔29〕に記載の製造方法。
〔31〕〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の抗原結合分子を投与する工程を含む、がんの治療方法。
〔32〕がんの治療において使用するための、〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の抗原結合分子。
〔33〕がんの治療剤の製造における、〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の抗原結合分子の使用。
〔34〕〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の抗原結合分子を使用する工程を含む、がんの治療剤を製造するためのプロセス。
〔35〕上記に記載の1又は複数の態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。

【図面の簡単な説明】

【0016】

図1】第一の抗原と第二の抗原に結合するが、同時には結合しない抗体の概念図である。

図2】二つの抗原に同時結合しないため、クロスリンクを起こさない抗体の概念図である。

図3】二つの抗原に同時結合しても、二つの細胞を同時に結合しない抗体の概念図である。

図4】癌細胞と、第一のレセプターを発現しているT細胞とをクロスリンクする抗体の概念図である。

図5】癌細胞と、第二のレセプターを発現している細胞とをクロスリンクする抗体の概念図である。

図6】癌細胞と免疫細胞をクロスリンクするが、免疫細胞同士をクロスリンクしない抗体の概念図である。

図7】CE115のCD3εに対する細胞ELISAの結果を示すグラフである。

図8】EGFR_ERY22_CE115の分子形を示す図である。

図9】EGFR_ERY22_CE115のTDCC結果(SK-pca13a)を示すグラフである。

図10】ヒト化CE115のCD3εに対する結合性を示すグラフである。

図11】RGD挿入CE115のインテグリンへの結合を検出するECL-ELISAの結果を示すグラフである。

図12】RGD挿入CE115のCD3εへの結合を検出するECL-ELISAの結果を示すグラフである。

図13】RGD挿入CE115のインテグリンおよびCD3εへの同時結合を検出するECL-ELSIAの結果を示すグラフである。同時結合する改変体についての結果を示す。

図14】RGD挿入CE115の同時結合 ECL-ELISAの結果を示すグラフである。同時結合しない改変体についての結果を示す。

図15】TLR2結合ペプチド挿入CE115のTLR2への結合を検出するECL-ELISAの結果を示すグラフである。

図16】TLR2結合ペプチド挿入CE115のCD3εへの結合を検出するECL-ELISAの結果を示すグラフである。

図17】TLR2結合ペプチド挿入CE115のTLR2およびCD3への同時結合を検出するECL-ELISAの結果を示すグラフである。

図18】結合量の比が0.8未満の抗体のセンサーグラムの例である。縦軸はRU値(レスポンス)、横軸は時間である。

図19】ファージが提示したFabドメインとCD3ε、IL6Rとの結合を示す図である。

図20】ファージが提示したFabドメインとCD3ε、ヒトIgA(hIgA)との結合を示す図である。NCは抗原を固相化していないプレートへの結合をあらわしている。

図21】IgG化したクローンのCD3ε、ヒトIgA(hIgA)との結合を示す図である。

図22】IgG化したクローンとヒトIgAの結合がCD3εによって阻害され、当該クローンがヒトIgA(hIgA)及びCD3εと同時には結合できないことを示す図である。

図23】ファージが提示したFabドメインとCD3ε、ヒトCD154との結合を示す図である。NCは抗原を固相化していないプレートへの結合をあらわしている。

図24】IgG化したクローンのCD3ε、ヒトCD154との結合を示す図である。

図25】IgG化したクローンとヒトCD154の結合がCD3εによって阻害され、当該クローンがヒトCD154及びCD3εと同時には結合できないことを示す図である。

【発明を実施するための形態】

【0017】

本発明において「抗体の可変領域」は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)とそれに挟まれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region;CDR)で構成される領域を意味し、抗原の一部又は全部に結合する活性を有する限り、その部分配列も含まれる。特に、抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む領域が好ましい。本発明の抗体の可変領域は、任意の配列であってよく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体、および、これらの非ヒト抗体をヒト化したヒト化抗体、および、ヒト抗体など、どのような由来の抗体の可変領域でもよい。「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。

【0018】

本発明の「抗体の可変領域」が「第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない」とは、本発明の抗体の可変領域が第1の抗原に結合している状態では、第2の抗原とは結合することができず、逆に当該可変領域が、第2の抗原に結合している状態では、第1の抗原とは結合することができないことを意味する。ここで、「第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない」ことには、第1の抗原が発現している細胞と第2の抗原が発現している細胞の2つの細胞を架橋しない、あるいは、それぞれ別々の細胞に発現している第1の抗原と第2の抗原に同時に結合しないことも含まれる。さらに、第1の抗原と第2の抗原が、可溶型タンパクのように細胞膜上に発現していない、或いは、両方が同一細胞上に存在する場合には、第1の抗原と第2の抗原の両方に同時に結合することができるが、それぞれ異なる細胞上で発現している場合には同時には結合することができない場合も含まれる。そのような抗体の可変領域としては、当該機能を有している限り特に限定されないが、例えば、IgG型の抗体の可変領域の一部のアミノ酸を、所望の抗原に結合するように改変した可変領域を挙げることができる。改変されるアミノ酸としては、例えば、第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域のうち、アミノ酸改変によって当該抗原への結合を喪失させないアミノ酸が選択される。
ここで「異なる細胞上で発現」とは、別々の細胞上で発現していればよく、そのような細胞の組合せとしては、例えば、T細胞と別のT細胞のように同一種類の細胞であってもよいし、T細胞とNK細胞のように異なる種類の細胞であってもよい。

【0019】

本発明のアミノ酸改変は、単独で用いてもよく複数組み合わせて使用してもよい。
複数組み合わせて使用する場合、組み合わせる数は特に限定されず、発明の目的を達成できる範囲内で適宜設定することができ、例えば、2個以上30個以下、好ましくは2個以上25個以下、2個以上22個以下、2個以上20個以下、2個以上15個以下、2個以上10個以下、2個以上5個以下、2個以上3個以下である。
複数組み合わせる場合、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のみに当該アミノ酸改変を加えてもよく、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の双方に適宜振り分けて加えてもよい。

【0020】

改変されるアミノ酸残基は、その抗原結合活性が維持される限り、可変領域中の1または複数のアミノ酸残基の改変が許容される。可変領域のアミノ酸を改変する場合、特に限定されないが、改変前の抗体の結合活性が維持されていることが好ましく、例えば、改変前と比較して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上の結合活性を有していることが好ましい。又、アミノ酸改変により結合活性が上昇していてもよく、例えば結合活性が改変前と比較して2倍、5倍、10倍等になっていてもよい。

【0021】

アミノ酸改変のための好ましい領域としては、可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56、89~97が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、51~56、89~96がより好ましい。また、アミノ酸改変時に、抗原との結合活性を上昇させるアミノ酸をあわせて導入しても良い。

【0022】

なお、本発明において「ループ領域」とは、イムノグロブリンのβバレル構造の維持に関与しない残基が存在する領域を意味する。
本発明においてアミノ酸の改変とは、置換、欠失、付加、挿入、あるいは修飾のいずれか、又はそれらの組み合わせを意味する。本発明においては、アミノ酸の改変はアミノ酸の変異と言い換えることが可能であり、同じ意味で使用される。

【0023】

アミノ酸残基を置換する場合には、別のアミノ酸残基に置換することで、例えば次の(a)~(c)のような点について改変する事を目的とする。 (a) シート構造、若しくは、らせん構造の領域におけるポリペプチドの背骨構造;(b) 標的部位における電荷若しくは疎水性、または(c)側鎖の大きさ。
アミノ酸残基は一般の側鎖の特性に基づいて以下のグループに分類される: (1) 疎水性: ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile; (2) 中性親水性: cys、ser、thr、asn、gln; (3) 酸性: asp、glu; (4) 塩基性: his、lys、arg; (5) 鎖の配向に影響する残基: gly、pro;及び (6) 芳香族性: trp、tyr、phe。

【0024】

これらの各グループ内でのアミノ酸残基の置換は保存的置換と呼ばれ、一方、他グループ間同士でのアミノ酸残基の置換は非保存的置換と呼ばれる。
本発明における置換は、保存的置換であってもよく、非保存的置換であってもよく、また保存的置換と非保存的置換の組合せであってもよい。

【0025】

また、アミノ酸残基に改変を加えることには、第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域のうち、アミノ酸改変によって当該抗原への結合を喪失させないアミノ酸をランダムに改変したものの中から、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが、同時には結合することができない可変領域を選択する、或いは、予め所望の抗原に対して結合活性を有していることが知られているぺプチドを上述の領域に挿入する改変も含まれる。予め所望の抗原に対して結合活性を有していることが知られているぺプチドとしては、例えば、表1に示したペプチドが挙げられる。

【0026】

【表1】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (1)

【0027】

本発明の一態様として、第1の抗原および該第1の抗原とは異なる第2の抗原に結合することができるが、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しないように、重鎖可変領域のアミノ酸が改変された抗体の可変領域を含む、抗原結合分子が提供される。例えば,上述したアミノ酸改変(置換、欠失、付加、挿入、あるいは修飾のいずれか、又はそれらの組み合わせ)を重鎖可変領域に導入することにより、第1の抗原および該第1の抗原とは異なる第2の抗原に結合することができるが、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しないような抗体の可変領域を作製することができる。アミノ酸改変を導入する位置は、重鎖可変領域が好ましく、より好ましい領域としては、可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101がより好ましい。また、アミノ酸改変時に、抗原との結合活性を上昇させるアミノ酸をあわせて導入しても良い。

【0028】

本発明の抗体の可変領域には、上述の改変に加えて、公知の改変が組み合わされていてもよい。例えば、可変領域のN末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である。したがって、本発明の抗体は、その重鎖のN末端がグルタミンの場合には、それがピログルタミン酸に修飾された可変領域を含む。

【0029】

また、例えば、これらの抗体の可変領域に対して、抗原への結合、薬物動態、安定性、抗原性を改善するために、さらにアミノ酸改変が導入されたものであってもよい。本発明の抗体の可変領域を、抗原に対してpH依存的な結合性を有する改変を加えることで、抗原に対して繰り返し結合することができてもよい(WO/2009/125825)。

【0030】

また、例えば、これらの抗体の第3の抗原に結合する可変領域に対して、標的組織特異的な化合物の濃度に応じて抗原に対する結合活性が変化するアミノ酸改変を加えることもできる(WO2013/180200)。

【0031】

さらに、例えば、可変領域の改変は結合活性の上昇、特異性の改善、pIの低下、抗原に対する結合にpH依存的な性質の付与、結合熱安定性の改善、溶解性の改善、化学修飾に対する安定性、糖鎖に由来するヘテロジェナイエティの改善、免疫原性を低下させることをin silico予測を使って同定した、あるいはin vitroのT細胞を使ったアッセイによって同定したT細胞エピトープの回避、あるいはレギュラトリーT細胞を活性化するT細胞エピトープの導入等を目的とした改変も実施され得る(mAbs 3:243-247, 2011)。

【0032】

本発明の抗体の可変領域が「第1の抗原と第2の抗原に結合することができる」かどうかは、公知の方法を用いて測定することができる。
例えば、電気化学発光法(ECL法)によって測定することができる(BMC Research Notes 2011, 4:281 )。
具体的には、例えば、ビオチン標識された被験抗原結合分子の第1の抗原と第2の抗原に結合することができる領域、例えば、Fab領域からなる低分子化された抗体、或いは、一価性の抗体(通常の抗体が有する2つのFab領域のうち1つがない抗体)に、sulfo-tag(Ru錯体)で標識された第1の抗原又は第2の抗原を混合し、ストレプトアビジン固相化プレート上に添加する。このとき、ビオチン標識された被検抗原結合分子はプレート上のストレプトアビジンに結合される。Sulfo-tagを発光させ、Sector Imager 600、2400(MSD)等を利用して、その発光シグナルを検出することで、第1の抗原又は第2の抗原と、被験抗原結合分子の上述の領域との結合を確認することができる。
また、ELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity hom*ogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって測定することもできる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。

【0033】

具体的には、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用した相互作用解析機器であるBiacore (GE Healthcare) を用いて測定することができる。BiacoreはBiacore T100、T200、X100、A100、4000、3000、2000、1000、Cなどいずれの機種も含まれる。センサーチップにはCM7、CM5、CM4、CM3、C1、SA、NTA、L1、HPA,Auチップ等のBiacore用のセンサーチップのいずれも用いることができる。センサーチップ上にアミンカップリング、ジスルフィドカップリング、アルデヒドカップリング等のカップリング方法で本発明の抗原結合分子を補足するProteinA、ProteinG、ProteinL、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgG-Fab、抗ヒトL鎖抗体、抗ヒトFc抗体、抗原タンパク質、抗原ペプチド等の補足用のタンパク質を固定化する。そこへ第1の抗原又は第2の抗原をアナライトとして流し、相互作用を測定し、センサーグラムを取得する。このときの第1の抗原又は第2の抗原の濃度は測定するサンプルのKD等の相互作用の強さに合わせて、数μMから数pMの範囲で実施することができる。

【0034】

また、抗原結合分子ではなく、第1の抗原又は第2の抗原をセンサーチップ上に固定化し、そこへ評価したい抗体サンプルを相互作用させることも可能である。相互作用のセンサーグラムから算出した解離定数(KD)値、あるいは抗原結合分子サンプルを作用させる前後のセンサーグラムの増加の程度から本発明の抗原結合分子の抗体可変領域が、第1の抗原又は第2の抗原に対する結合活性を有しているかどうかを判断することができる。

【0035】

ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルが検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。

【0036】

相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムからセンサーチップ表面に補足したリガンドに対するアナライトの結合量(アナライトを相互作用させた前後でのセンサーグラム上でのレスポンスの変化量)が求められる。ただし、結合量はリガンドの量にも依存するため、比較する際にはリガンドの量を本質的に同じ量にしたとみなせる条件下で比較する必要がある。また、センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。

【0037】

本発明の抗原結合分子が「第1の抗原と第2抗原に同時には結合しない」かどうかは、第1の抗原及び第2の抗原に対して結合活性を有していることを確認した後、当該結合活性を有する可変領域を含む抗原結合分子に対して、予め第1の抗原又は第2の抗原のいずれか一方を結合させた後で、残りの一方に対して結合活性を有するかどうかを上述の方法を用いて測定することで確認することができる。
また、ELISAプレートあるいはセンサーチップに固定した第1の抗原又は第2の抗原のいずれか一方への抗原結合分子の結合が、他方を溶液中に添加することで阻害されるかどうかを測定することによって確認することもできる。

【0038】

具体的には、例えば、ECL法を用いる場合、ビオチン標識された被験抗原結合分子に、sulfo-tag(Ru錯体)で標識された第1の抗原と標識されていない第2の抗原を準備する。被験抗原結合分子が、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが、第1の抗原と第2の抗原と同時には結合しない場合、標識されていない第2の抗原非存在下では、被験抗原結合分子と第1の抗原の混合物をストレプトアビジン固相化プレート上に添加し、Sulfo-tagを発光させると、その発光シグナルが検出されるが、第2の抗原の存在下では、発光シグナルが減少する。この発行シグナルの減少を定量することによって相対的な結合活性が決定され得る。

【0039】

また、ALPHAスクリーンの場合、競合する第2の抗原の非存在下では、被検抗原結合分子と第1の抗原とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない第2の抗原は、被検抗原結合分子と第1の抗原間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合活性が決定され得る。ポリペプチドをSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。第1の抗原をGSTでタグ化する方法としては、第1の抗原をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターを保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。このとき、第2の抗原をタグ化し、第1の抗原をタグ化しないことでも同様に解析が可能である。
また、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET; Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用した方法を用いることもできる。FRETとは、近接した2個の蛍光分子の間で励起エネルギーが、電子の共鳴により直接移動する現象である。FRETが起こると、ドナー (励起状態にある蛍光分子) の励起エネルギーがアクセプター (ドナーの近傍にあるもう1つの蛍光分子) に移動するため、ドナーから放射される蛍光が消失 (正確には蛍光寿命の短縮) し、代わりにアクセプターから蛍光が放射される。この現象を用いてdual-Fabであるかどうかを解析することができる。例えば、蛍光ドナーを導入した第1の抗原と、蛍光アクセプターを導入した第2の抗原が、被検抗原結合分子に同時に結合すると、ドナーの蛍光は消失し、アクセプターから蛍光が放射されるため、蛍光波長の変化が起こる。このような抗体はdual-Fabではないと判断される。一方、第1の抗原、第2の抗原、被検抗原結合分子を混合した際に、第1の抗原に結合させた蛍光ドナーの蛍光波長の変化が起こらなければ、この被検抗原結合分子はdual-Fabであるということができる。

【0040】

また、例えば、ドナービーズにビオチン標識された被検抗原結合分子がドナービーズ上のストレプトアビジンに結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化された第1の抗原が結合される。競合する第2の抗原の非存在下では、被検抗原結合分子と第1の抗原とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない第2の抗原は、被検抗原結合分子と第1の抗原間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合活性が決定され得る。ポリペプチドをSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。第1の抗原をGSTでタグ化する方法としては、第1の抗原をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターを保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。

【0041】

なお、タグ化はGSTに限らず、ヒスチジンタグ、MBP、CBP、Flagタグ、HAタグ、V5タグ、c-mycタグなどのどのようなタグででよく、限定されない。また、被検抗原結合分子のドナービーズへの結合については、ビオチンーストレプトアビジン反応を利用した結合に限らればい。特に、被検抗原結合分子がFcを含む場合は、ドナービーズ上のProtein A、Protein GなどのFc認識タンパク質を介して被検抗原結合分子を結合させる方法が考えられる。

【0042】

また、第1の抗原と第2の抗原が、可溶型タンパクのように細胞膜上に発現していない場合、或いは、両方が同一細胞上に存在する場合には、第1の抗原と第2の抗原の両方に同時に結合することができるが、それぞれ異なる細胞上で発現している場合には同時には結合することができない場合についても公知の方法を用いることで測定することができる。
具体的には、第一の抗原と第二の抗原に対する同時結合を検出するECL-ELISAで陽性になった場合においても、それぞれ第一の抗原を発現する細胞と第二の抗原を発現する細胞及び被検抗原結合分子を混合した場合に、これら3者が同時に結合することがなければ、異なる細胞上に発現している場合には同時には結合することができないことを示すことができる。例えば、細胞を用いたECL-ELISA法で測定することが可能である。あらかじめ第一の抗原を発現する細胞をプレートに固相化し、被検抗原結合分子を結合させた後に、第二の抗原を発現する細胞を加える。第二の抗原を発現する細胞にのみ発現する別の抗原に対する、sulfo-tag標識抗体を用いて検出することにより、二つの細胞上に発現する二つの抗原と同時に結合している場合はシグナルが観測され、同時に結合しない場合は、シグナルが観測されない。
もしくは、alphascreen法で測定することが可能である。ドナービーズを結合した第1の抗原を発現する細胞と、アクセプタービーズを結合した第2の抗原を発現する細胞と、被検抗原結合分子を混合した際に、二つの細胞上に発現する二つの抗原と同時に結合している場合はシグナルが観測され、同時に結合しない場合は、シグナルが観測されない。
もしくはOctetを用いた相互作用解析法で測定することが可能である。まず初めに、ぺプチドタグを付加した第1の抗原を発現する細胞を、ペプチドタグを認識するバイオセンサーに結合させる。第二の抗原を発現する細胞と被検抗原結合分子を入れたウェルで相互作用解析を行った際に、二つの細胞上に発現する二つの抗原と同時に結合している場合は被検抗原結合分子と第2の抗原を発現する細胞がバイオセンサーに結合することにより大きな波長シフトが観測され、同時に結合しない場合は、被検抗原結合分子だけがバイオセンサーに結合するため、小さな波長シフトが観測される。

【0043】

あるいは結合活性ではなく、生物活性による測定も可能である。例えば、第1の抗原を発現する細胞と第2の抗原を発現する細胞と被検抗原結合分子を混合培養した場合に、二つの細胞上に発現する二つの抗原と同時に結合している場合は、被検抗原結合分子を介して相互に活性化されるため、それぞれの抗原の下流のリン酸化が増加するなどの活性化シグナルの変化を検出することができる。もしくは、活性化の結果として、サイトカインの産生が誘導されるため、サイトカインの産生量を測定することにより、二つの細胞に同時に結合するか否かを判断することができる。

【0044】

本発明において、「Fc領域」は、抗体分子中の、ヒンジ部若しくはその一部、CH2、CH3ドメインからなるフラグメントを含む領域のことをいう。IgGクラスのFc領域は、EU ナンバリング(本明細書ではEU INDEXとも呼ばれる)で、例えば226番目のシステインからC末端、あるいは230番目のプロリンからC末端までを意味するが、これに限定されない。Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインAカラムまたはプロテインGカラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にFabやF(ab')2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやパパイン等が例示できる。

【0045】

本発明における「抗原結合分子」とは、本発明の「抗体の可変領域」を含む分子であれば特に限定されず、さらに、5アミノ酸程度以上の長さを有するペプチドやタンパク質が含まれていてもよい。生物由来のペプチドやタンパク質に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。

【0046】

本発明の抗原結合分子の好ましい例として、抗体のFc領域を含む抗原結合分子を挙げることができる。

【0047】

本発明の「Fc領域」として、例えば、天然型IgG由来のFc領域を用いることができる。ここで、天然型IgGとは、天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を包含し、免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。例えば天然型ヒトIgGとは天然型ヒトIgG1、天然型ヒトIgG2、天然型ヒトIgG3、天然型ヒトIgG4などを意味する。天然型IgGにはそれから自然に生じる変異体等も含まれる。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4抗体の定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242 に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。特にヒトIgG1の配列としては、EUナンバリング356-358番目のアミノ酸配列がDELであってもEEMであってもよい。

【0048】

抗体のFc領域としては、例えばIgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgMタイプのFc領域が存在している。本発明の抗体のFc領域は、例えば天然型ヒトIgG抗体由来のFc領域を用いることができる。本発明のFc領域として、例えば、天然型IgGの定常領域、具体的には、天然型ヒトIgG1を起源とする定常領域(配列番号:1)、天然型ヒトIgG2を起源とする定常領域(配列番号:2)、天然型ヒトIgG3を起源とする定常領域(配列番号:3)、天然型ヒトIgG4を起源とする定常領域(配列番号:4)由来のFc領域を用いることができる。天然型IgGの定常領域にはそれから自然に生じる変異体等も含まれる。

【0049】

本発明のFc領域としては、特にFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域が好ましい。ここで、Fcγ受容体(本明細書ではFcγレセプター、FcγRまたはFcγレセプターと記載することがある)とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のFc領域に結合し得る受容体をいい、実質的にFcγレセプター遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131(H型)およびR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサル由来のものが含まれるが、これらに限定されず、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγ受容体の好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、FcγRIIb(CD32)、FcγRIIIa(CD16)及び/又はFcγRIIIb(CD16)が挙げられる。

【0050】

FcγRには、ITAM(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif)をもつ活性型レセプターとITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)をもつ抑制型レセプターが存在する。FcγRはFcγRI、FcγRIIa R、FcγRIIa H、FcγRIIIa、FcγRIIIbの活性型FcγRと、FcγRIIbの抑制型FcγRに分類される。
FcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれNM_000566.3及びNP_000557.1に、FcγRIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC020823.1及びAAH20823.1に、FcγRIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC146678.1及びAAI46679.1に、FcγRIIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC033678.1及びAAH33678.1に、並びにFcγRIIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC128562.1及びAAI28563.1に記載されている(RefSeq登録番号)。尚、FcγRIIaには、FcγRIIaの131番目のアミノ酸がヒスチジン(H型)あるいはアルギニン(R型)に置換された2種類の遺伝子多型が存在する(J. Exp. Med, 172, 19-25, 1990)。また、FcγRIIbには、FcγRIIbの232番目のアミノ酸がイソロイシン(I型)あるいはスレオニン (T型)に置換された2種類の遺伝子多型が存在する(Arthritis. Rheum. 46: 1242-1254 (2002))。また、FcγRIIIaには、FcγRIIIaの158番目のアミノ酸がバリン(V型)あるいはフェニルアラニン(F型)に置換された2種類の遺伝子多型が存在する(J. Clin. Invest. 100(5): 1059-1070 (1997))。また、FcγRIIIbには、NA1型、NA2型の2種類の遺伝子多型が存在する(J. Clin. Invest. 85: 1287-1295 (1990))。

【0051】

Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているかどうかは、FACS、ELISAフォーマット、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity hom*ogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等、周知の方法によって確認することができる(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルを検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。

【0052】

例えば、ドナービーズにビオチン標識された抗原結合分子が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγ受容体が結合される。競合する変異Fc領域を有する抗原結合分子の非存在下では、野生型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγ受容体とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない変異Fc領域を有する抗原結合分子は、野生型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγ受容体間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等の抗原結合分子をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。Fcγ受容体をGSTでタグ化する方法としては、Fcγ受容体をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターを保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウェアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。

【0053】

相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。

【0054】

本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とするFc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較して、被験抗原結合分子の結合活性が、50%以下、好ましくは45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、15%以下、特に好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。
対照とする抗原結合分子としては、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:1(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、配列番号:2(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、配列番号:3(RefSeq登録番号CAA27268.1のN末にA付加)、配列番号:4(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域の変異体を有する抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプの抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該変異体が有する変異によるFcγ受容体への結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγ受容体に対する結合活性が低下していることが検証されたFc領域の変異体を有する抗原結合分子が適宜作製される。

【0055】

このような変異体の例としては、EUナンバリングに従って特定されるアミノ酸である231A-238Sの欠失(WO 2009/011941)、C226S, C229S, P238S, (C220S)(J.Rheumatol (2007) 34, 11)、C226S, C229S(Hum.Antibod.Hybridomas (1990) 1(1), 47-54)、C226S, C229S, E233P, L234V, L235A(Blood (2007) 109, 1185-1192)等の変異体が公知である。
すなわち、特定のアイソタイプの抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位が置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。Fc領域の起源である抗体のアイソタイプとしては特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体を起源とするFc領域が適宜利用され得るが、天然型ヒトIgG1抗体を起源とするFc領域が好適に利用される。
例えば、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(a)L234F、L235E、P331S、
(b)C226S、C229S、P238S、
(c)C226S、C229S、
(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235A
が施されているFc領域、又は、231位から238位のアミノ酸配列が欠失したFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。

【0056】

また、IgG2抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(e)H268Q、V309L、A330S、P331S
(f)V234A
(g)G237A
(h)V234A、G237A
(i)A235E、G237A
(j)V234A、A235E、G237A
が施されているFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。

【0057】

また、IgG3抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(k)F241A
(l)D265A
(m)V264A
が施されているFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。

【0058】

また、IgG4抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(n)L235A、G237A、E318A
(o)L235E
(p)F234A、L235A
が施されているFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。

【0059】

その他の好ましい例として、天然型ヒトIgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;233位、234位、235位、236位、237位、327位、330位、331位が、対応するIgG2またはIgG4においてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されているFc領域を有する抗原結合分子が挙げられる。

【0060】

その他の好ましい例として、天然型ヒトIgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸;234位、235位、297位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、234位、235位、297位のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有する抗原結合分子が特に好ましい。

【0061】

その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;265位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、265位のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有する抗原結合分子が特に好ましい。

【0062】

また、本発明の「抗原結合分子」の好ましい態様の1つとして、本発明の抗体の可変領域を含む、多重特異性抗体を挙げることができる。

【0063】

多重特異性抗体の会合化には、抗体H鎖の第二の定常領域(CH2)又はH鎖の第三の定常領域(CH3)の界面に電荷的な反発を導入して目的としないH鎖同士の会合を抑制する技術を適用することができる(WO2006/106905)。
CH2又はCH3の界面に電荷的な反発を導入して意図しないH鎖同士の会合を抑制させる技術において、H鎖の他の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基としては、例えばCH3領域におけるEUナンバリング356番目の残基、EUナンバリング439番目の残基、EUナンバリング357番目の残基、EUナンバリング370番目の残基、EUナンバリング399番目の残基、EUナンバリング409番目の残基に相対する領域を挙げることができる。

【0064】

より具体的には、例えば、2種のH鎖CH3領域を含む抗体においては、第1のH鎖CH3領域における以下の(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組から選択される1組ないし3組のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体とすることができる; (1)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング356位および439位のアミノ酸残基、 (2)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング357位および370位のアミノ酸残基、 (3)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング399位および409位のアミノ酸残基。

【0065】

更に、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域における前記(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組から選択されるアミノ酸残基の組であって、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組に対応する1組ないし3組のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体とすることができる。

【0066】

上記(1)~(3)に記載のそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)~(3)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。

【0067】

上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の(a)または(b)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい;
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。

【0068】

上記抗体において、「同種の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記(a)または(b)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のなかの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記(a)または(b)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有する場合に、残りのアミノ酸残基が異なる群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。

【0069】

好ましい態様において上記抗体は、第1のH鎖CH3領域と第2のH鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
本発明において改変に供するアミノ酸残基としては、上述した抗体の可変領域または抗体の定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、ポリペプチド変異体または異種多量体について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を見出すことができ、会合を制御するように、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。

【0070】

また、本発明の多重特異性抗体の会合化には更に他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖の可変領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob; 突起)に置換し、もう一方のH鎖の相対する可変領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole; 空隙)に置換することによって、突起が空隙に配置され得るようにすることで効率的にFc領域を有する異なるアミノ酸を有するポリペプチド同士の会合化を起こすことができる(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)。

【0071】

これに加えて、本発明の多重特異性抗体の形成には更に他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖のCH3の一部をその部分に対応するIgA由来の配列にし、もう一方のH鎖のCH3の相補的な部分にその部分に対応するIgA由来の配列を導入したstrand-exchange engineered domain CH3を用いることで、異なる配列を有するポリペプチドの会合化をCH3の相補的な会合化によって効率的に引き起こすことができる (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を使っても効率的に目的の多重特異性抗体の形成させることができる。

【0072】

他にも多重特異性抗体の形成には、WO2011/028952に記載の抗体のCH1とCLの会合化、VH、VLの会合化を利用した抗体作製技術、WO2008/119353やWO2011/131746に記載の別々に調製したモノクローナル抗体同士を使用して二重特異性抗体を作製する技術(Fab Arm Exchange)、WO2012/058768やWO2013/063702に記載の抗体重鎖のCH3間の会合を制御する技術、WO2012/023053に記載の二種類の軽鎖と一種類の重鎖とから構成される二重特異性抗体を作製する技術、Christophら(Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))に記載の1本のH鎖と1本のL鎖からなる抗体の片鎖をそれぞれ発現する2つのバクテリア細胞株を利用した二重特異性抗体を作製する技術等を用いることもできる。また、上記の会合技術のほか、第一のエピトープに結合する可変領域を形成する軽鎖、および第二のエピトープに結合する可変領域を形成する軽鎖を、各々、第一のエピトープに結合する可変領域を形成する重鎖、および第二のエピトープに結合する可変領域を形成する重鎖に会合させる異種の軽鎖の会合技術として知られるCrossMab技術(Scaeferら(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. (2011) 108, 11187-11192))も、本発明が提供する多重特異性または多重パラトピック抗原結合分子を作製するために使用され得る。別々に調製したモノクローナル抗体同士を使用して二重特異性抗体を作製する技術として、重鎖CH3領域に存在する特定のアミノ酸を置換したモノクローナル抗体を還元状況下におくことにより、抗体のヘテロ化を促進し所望の二重特異性抗体を得る方法を挙げることが出来る。当該方法における好ましいアミノ酸置換部位としては、例えばCH3領域におけるEUナンバリング392番目の残基、EUナンバリング397番目の残基を挙げることができる。さらに、第1のH鎖CH3領域における以下の(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組から選択される1組ないし3組のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体を利用して二重特性抗体を作製することもできる; (1)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング356位および439位のアミノ酸残基、 (2)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング357位および370位のアミノ酸残基、 (3)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング399位および409位のアミノ酸残基。更に、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域における前記(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組から選択されるアミノ酸残基の組であって、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組に対応する1組ないし3組のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体を利用して二重特性抗体を作製することもできる。

【0073】

また、効率的に目的の多重特異性抗体を形成させることができない場合であっても、産生された抗体の中から目的の多重特異性抗体を分離、精製することによっても、本発明の多重特異性抗体を得ることが可能である。例えば、2種類のH鎖の可変領域にアミノ酸置換を導入し等電点の差を付与することで、2種類のホモ体と目的のヘテロ抗体をイオン交換クロマトグラフィーで精製可能にする方法が報告されている(WO2007114325)。また、ヘテロ体を精製する方法として、これまでに、プロテインAに結合するマウスIgG2aのH鎖とプロテインAに結合しないラットIgG2bのH鎖からなるヘテロ二量化抗体をプロテインAを用いて精製する方法が報告されている(WO98050431, WO95033844)。更に、IgGとProteinAの結合部位であるEUナンバリング435番目および436番目のアミノ酸残基を、Tyr、HisなどのProteinAへの結合力の異なるアミノ酸に置換したH鎖を用いることで、各H鎖とProtein Aとの相互作用を変化させ、Protein Aカラムを用いることで、ヘテロ二量化抗体のみを効率的に精製することもできる。

【0074】

これらの技術を複数、例えば2個以上組合せて用いることもできる。またこれらの技術は、会合させたい2つのH鎖に適宜別々に適用させることもできる。なお、本発明の抗原結合分子は、上記改変が加えられたものをベースにして、同一のアミノ酸配列を有する抗原結合分子を別途作製したものであってもよい。

【0075】

アミノ酸配列の改変は、当分野において公知の種々の方法により行うことができる。これらの方法には、次のものに限定されるわけではないが、部位特異的変異誘導法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)、PCR変異法、カセット変異法等の方法により行うことができる。

【0076】

また、本発明の「抗原結合分子」は、単一のポリペプチド鎖内に、本発明の「抗体の可変領域」を形成する重鎖および軽鎖の両方を含むが、定常領域を欠いている抗体断片であってもよい。そのような抗体断片としては、例えば、ダイアボディ(diabody;Db)、単鎖抗体、sc(Fab')2であってもよい。

【0077】

Dbは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマー(Holliger P et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、W093/11161号等)であり、各々のポリペプチド鎖は、同じ鎖中でL鎖可変領域(VL)及びH鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。
同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖可変領域フラグメントを形成することが出来ず、二量体化することにより、2つの抗原結合部位を形成する。

【0078】

単鎖抗体としては、例えばsc(Fv)2が挙げられる。sc(Fv)2は二つのVLと二つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を構成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この二つのVHとVLは異なるモノクローナル抗体から由来することもあり得る。例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような同一抗原中に存在する二種類のエピトープを認識する二重特異性(bispecific sc(Fv)2)も好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって作製され得る。例えば、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで結ぶことによって作製され得る。

【0079】

本明細書におけるsc(Fv)2を構成する抗原結合ドメインの構成としては、二つのVH及び二つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が挙げられるが、二つのVHと2つのVLの順序は特に上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような、順序の構成も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]

【0080】

sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されており、当業者であればこれらの記載に基づいて、本明細書で開示される抗原結合分子の作製のために適宜所望のsc(Fv)2を作製することが可能である。

【0081】

また本発明の抗原結合分子は、PEG等のキャリアー高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。また糖鎖付加配列を挿入し、糖鎖が所望の効果を得ることを目的として好適に付加され得る。

【0082】

抗体の可変領域を結合するリンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996参照)に開示されるリンカー等を用いることができるが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、全て同じ長さのペプチドリンカーを用いてもよいし、異なる長さのペプチドリンカーを用いてもよい。

【0083】

例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:5)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:6)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:8)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:9)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:10)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:11)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:12)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:8))n
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。

【0084】

合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ-DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となるが、全て同じリンカーを用いてもよいし、異なるリンカーを用いてもよい。

【0085】

F(ab')2は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が2つの重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む二本の重鎖を含む。本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成するF(ab')2は、所望の抗原結合ドメインを有する全長モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させて除去することにより、好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にF(ab')2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。

【0086】

また本発明の抗原結合分子には、上述のアミノ酸の改変に加え、更に付加的な改変を含むことができる。付加的な改変は、たとえば、アミノ酸の置換、欠失、あるいは修飾のいずれか、あるいはそれらの組み合わせから選択することができる。
例えば、本発明の抗原結合分子には、さらに当該分子の目的とする機能に実質的な変化を与えない範囲で、任意に改変を加えることができる。例えばこのような変異はアミノ酸残基の保存的置換によって行うことができる。また、本発明の抗原結合分子の目的とする機能に変化を与えるような改変であっても、当該機能の変化が本発明の目的の範囲内であれば、そのような改変も行うことができる。

【0087】

本発明におけるアミノ酸配列の改変には、翻訳後修飾も含まれる。具体的な翻訳後修飾として、糖鎖の付加あるいは欠損を示すことができる。たとえば、本発明の抗原結合分子がIgG1型の定常領域を有する場合において、EUナンバリングの297番目のアミノ酸残基は、糖鎖で修飾されたものであることができる。修飾される糖鎖構造は限定されない。一般的に、真核細胞で発現される抗体は、定常領域に糖鎖修飾を含む。したがって、以下のような細胞で発現される抗体は、通常、何らかの糖鎖で修飾される。
・哺乳動物の抗体産生細胞
・抗体をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換された真核細胞
ここに示した真核細胞には、酵母や動物細胞が含まれる。たとえばCHO細胞やHEK293H細胞は、抗体をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換するための代表的な動物細胞である。他方、当該位置に糖鎖修飾が無いものも本発明の抗体に含まれる。定常領域が糖鎖で修飾されていない抗体は、抗体をコードする遺伝子を大腸菌などの原核細胞で発現させて得ることができる。

【0088】

本発明において付加的な改変としては、より具体的には、例えばFc領域の糖鎖にシアル酸を付加したものであってもよい(MAbs. 2010 Sep-Oct;2(5):519-27.)。

【0089】

また、本発明の抗原結合分子がFc領域部分を有する場合、例えばFcRnに対する結合活性を向上させるアミノ酸置換(J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56、J Biol Chem. 2006 Aug 18;281(33):23514-24.、Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69.、Nat Biotechnol. 2010 Feb;28(2):157-9.、WO/2006/019447、WO/2006/053301、WO/2009/086320)、抗体のヘテロジェニティーや安定性を向上させるためのアミノ酸置換((WO/2009/041613))を加えてもよい。

【0090】

さらに、本発明における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体変異体、抗体断片、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、キメラ抗体、ヒト化抗体等、如何なる抗体も含まれる。

【0091】

本発明の抗体は、抗原の種類、抗体の由来などは限定されず、いかなる抗体でもよい。抗体の由来としては、特に限定されないが、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体などを挙げることができる。

【0092】

抗体を作製する方法は当業者によく知られているが、例えばモノクローナル抗体の場合、ハイブリドーマ法(Kohler and Milstein, Nature 256:495 (1975))、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。また、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991) ; Marks et al., J.Mol.Biol. 222:581-597 (1991))。また、単一のB細胞クローンから単離してもよい (N. Biotechnol. 28(5): 253-457 (2011))。

【0093】

ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。

【0094】

3つのCDRと4つのFRが連結された抗体可変領域をコードするDNAとヒト抗体定常領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400、国際公開WO1996/002576参照)。

【0095】

必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。

【0096】

ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。

【0097】

さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。

【0098】

本発明の抗体を構成する可変領域は、任意の抗原を認識する可変領域であることが出来る。

【0099】

本明細書において「抗原」は特に限定されず、どのような抗原でもよい。抗原の例としては、17-IA, 4-1 BB, 4Dc, 6-keto-PGF1a, 8-iso-PGF2a, 8-oxo-dG, A1 Adenosine Receptor, A33, ACE, ACE-2, Activin, Activin A, Activin AB, Activin B, Activin C, Activin RIA, Activin RIA ALK-2, Activin RIB ALK-4, Activin RIIA, Activin RIIB, ADAM, ADAM10, ADAM12, ADAM15, ADAM17/TACE, ADAM8, ADAM9, ADAMTS, ADAMTS4, ADAMTS5, Addressins, adiponectin, ADP ribosyl cyclase-1, aFGF, AGE, ALCAM, ALK, ALK-1, ALK-7, allergen, alpha1-antichemotrypsin, alpha1-antitrypsin, alpha-synuclein, alpha-V/beta-1 antagonist, aminin, amylin, amyloid beta, amyloid immunoglobulin heavy chain variable region. amyloid immunoglobulin light chain variable region, Androgen, ANG, angiotensinogen, Angiopoietin ligand-2, anti-Id, antithrombinIII, Anthrax, APAF-1, APE, APJ, apo A1, apo serum amyloid A, Apo-SAA, APP, APRIL, AR, ARC, ART, Artemin, ASPARTIC, Atrial natriuretic factor, Atrial natriuretic peptide, atrial natriuretic peptides A, atrial natriuretic peptides B, atrial natriuretic peptides C, av/b3 integrin, Axl, B7-1, B7-2, B7-H, BACE, BACE-1, Bacillus anthracis protective antigen, Bad, BAFF, BAFF-R, Bag-1, BAK, Bax, BCA-1, BCAM, BcI, BCMA, BDNF, b-ECGF, beta-2-microglobulin, betalactamase, bFGF, BID, Bik, BIM, BLC, BL-CAM, BLK, B-lymphocyte Stimulator (BIyS), BMP, BMP-2 (BMP-2a), BMP-3 (Osteogenin), BMP-4 (BMP-2b), BMP-5, BMP-6 (Vgr-1), BMP-7 (OP-1), BMP-8 (BMP-8a), BMPR, BMPR-IA (ALK-3), BMPR-IB (ALK-6), BMPR-II (BRK-3), BMPs, BOK, Bombesin, Bone-derived neurotrophic factor, bovine growth hormone, BPDE, BPDE-DNA, BRK-2, BTC, B-lymphocyte cell adhesion molecule, C10, C1-inhibitor, C1q, C3, C3a, C4, C5, C5a(complement 5a), CA125, CAD-8, Cadherin-3, Calcitonin, cAMP, Carbonic anhydrase-IX, carcinoembryonic antigen (CEA), carcinoma-associated antigen, Cardiotrophin-1, Cathepsin A, Cathepsin B, Cathepsin C/DPPI, Cathepsin D, Cathepsin E, Cathepsin H, Cathepsin L, Cathepsin O, Cathepsin S, Cathepsin V, Cathepsin X/Z/P, CBL, CCI, CCK2, CCL, CCL1/I-309, CCL11/Eotaxin, CCL12/MCP-5, CCL13/MCP-4, CCL14/HCC-1, CCL15/HCC-2, CCL16/HCC-4, CCL17/TARC, CCL18/PARC, CCL19/ELC, CCL2/MCP-1, CCL20/MIP-3-alpha, CCL21/SLC, CCL22/MDC, CCL23/MPIF-1, CCL24/Eotaxin-2, CCL25/TECK, CCL26/Eotaxin-3, CCL27/CTACK, CCL28/MEC, CCL3/M1P-1-alpha, CCL3Ll/LD-78-beta, CCL4/MIP-l-beta, CCL5/RANTES, CCL6/C10, CCL7/MCP-3, CCL8/MCP-2, CCL9/10/MTP-1-gamma, CCR, CCR1, CCR10, CCR2, CCR3, CCR4, CCR5, CCR6, CCR7, CCR8, CCR9, CD1, CD10, CD105, CD11a, CD11b, CD11c, CD123, CD13, CD137, CD138, CD14, CD140a, CD146, CD147, CD148, CD15, CD152, CD16, CD164, CD18, CD19, CD2, CD20, CD21, CD22, CD23, CD25, CD26, CD27L, CD28, CD29, CD3, CD30, CD30L, CD32, CD33 (p67 proteins), CD34, CD37, CD38, CD3E, CD4, CD40, CD40L, CD44, CD45, CD46, CD49a, CD49b, CD5, CD51, CD52, CD54, CD55, CD56, CD6, CD61, CD64, CD66e, CD7, CD70, CD74, CD8, CD80 (B7-1), CD89, CD95, CD105, CD158a, CEA, CEACAM5, CFTR, cGMP, CGRP receptor, CINC, CKb8-1, Claudin18, CLC, Clostridium botulinum toxin, Clostridium difficile toxin, Clostridium perfringens toxin, c-Met, CMV, CMV UL, CNTF, CNTN-1, complement factor 3 (C3), complement factor D, corticosteroid-binding globulin, Colony stimulating factor-1 receptor, COX, C-Ret, CRG-2, CRTH2, CT-1, CTACK, CTGF, CTLA-4, CX3CL1/Fractalkine, CX3CR1, CXCL, CXCL1/Gro-alpha, CXCL10, CXCL11/I-TAC, CXCL12/SDF-l-alpha/beta, CXCL13/BCA-1, CXCL14/BRAK, CXCL15/Lungkine. CXCL16, CXCL16, CXCL2/Gro-beta CXCL3/Gro-gamma, CXCL3, CXCL4/PF4, CXCL5/ENA-78, CXCL6/GCP-2, CXCL7/NAP-2, CXCL8/IL-8, CXCL9/Mig, CXCLlO/IP-10, CXCR, CXCR1, CXCR2, CXCR3, CXCR4, CXCR5, CXCR6, cystatin C, cytokeratin tumor-associated antigen, DAN, DCC, DcR3, DC-SIGN, Decay accelerating factor, Delta-like protein ligand 4, des(1-3)-IGF-1 (brain IGF-1), Dhh, DHICA oxidase, Dickkopf-1, digoxin, Dipeptidyl peptidase IV, DKl, DNAM-1, Dnase, Dpp, DPPIV/CD26, Dtk, ECAD, EDA, EDA-A1, EDA-A2, EDAR, EGF, EGFR (ErbB-1), EGF like domain containing protein 7, Elastase, elastin, EMA, EMMPRIN, ENA, ENA-78, Endosialin, endothelin receptor, endotoxin, Enkephalinase, eNOS, Eot, Eotaxin, Eotaxin-2, eotaxini, EpCAM, Ephrin B2/EphB4, Epha2 tyrosine kinase receptor, epidermal growth factor receptor (EGFR), ErbB2 receptor, ErbB3 tyrosine kinase receptor, ERCC, EREG, erythropoietin (EPO), Erythropoietin receptor, E-selectin, ET-1, Exodus-2, F protein of RSV, F10, F11, F12, F13, F5, F9, Factor Ia, Factor IX, Factor Xa, Factor VII, factor VIII, Factor VIIIc, Fas, FcalphaR, FcepsilonRI, FcgammaIIb, FcgammaRI, FcgammaRIIa, FcgammaRIIIa, FcgammaRIIIb, FcRn, FEN-1, Ferritin, FGF, FGF-19, FGF-2, FGF-2 receptor, FGF-3, FGF-8, FGF-acidic, FGF-basic, FGFR, FGFR-3, Fibrin, fibroblast activation protein (FAP), fibroblast growth factor, fibroblast growth factor-10, fibronectin, FL, FLIP, Flt-3, FLT3 ligand, Folate receptor, follicle stimulating hormone (FSH), Fractalkine (CX3C), free heavy chain, free light chain, FZD1, FZD10, FZD2, FZD3, FZD4, FZD5, FZD6, FZD7, FZD8, FZD9, G250, Gas 6, GCP-2, GCSF, G-CSF, G-CSF receptor, GD2, GD3, GDF, GDF-1, GDF-15 (MIC-1), GDF-3 (Vgr-2), GDF-5 (BMP-14/CDMP-1), GDF-6 (BMP-13/CDMP-2), GDF-7 (BMP-12/CDMP-3), GDF-8 (Myostatin), GDF-9, GDNF, Gelsolin, GFAP, GF-CSF, GFR-alpha1, GFR-alpha2, GFR-alpha3, GF-β1, gH envelope glycoprotein, GITR, Glucagon, Glucagon receptor, Glucagon-like peptide 1 receptor, Glut 4, Glutamate carboxypeptidase II, glycoprotein hormone receptors, glycoprotein IIb/IIIa (GP IIb/IIIa), Glypican-3, GM-CSF, GM-CSF receptor, gp130, gp140, gp72, granulocyte-CSF (G-CSF), GRO/MGSA, Growth hormone releasing factor, GRO-β, GRO-γ, H. pylori, Hapten (NP-cap or NIP-cap), HB-EGF, HCC, HCC 1, HCMV gB envelope glycoprotein, HCMV UL, Hemopoietic growth factor (HGF), Hep B gp120, heparanase, heparin cofactor II, hepatic growth factor, Bacillus anthracis protective antigen, Hepatitis C virus E2 glycoprotein, Hepatitis E, Hepcidin, Her1, Her2/neu (ErbB-2), Her3 (ErbB-3), Her4 (ErbB-4), herpes simplex virus (HSV) gB glycoprotein, HGF, HGFA, High molecular weight melanoma-associated antigen (HMW-MAA), HIV envelope proteins such as GP120, HIV MIB gp 120 V3 loop, HLA, HLA-DR, HM1.24, HMFG PEM, HMGB-1, HRG, Hrk, HSP47, Hsp90, HSV gD glycoprotein, human cardiac myosin, human cytomegalovirus (HCMV), human growth hormone (hGH), human serum albumin, human tissue-type plasminogen activator (t-PA), Huntingtin, HVEM, IAP, ICAM, ICAM-1, ICAM-3, ICE, ICOS, IFN-alpha, IFN-beta, IFN-gamma, IgA, IgA receptor, IgE, IGF, IGF binding proteins, IGF-1, IGF-1 R, IGF-2, IGFBP, IGFR, IL, IL-1, IL-10, IL-10 receptors, IL-11, IL-11 receptors, IL-12, IL-12 receptors, IL-13, IL-13 receptors, IL-15, IL-15 receptors, IL-16, IL-16 receptors, IL-17, IL-17 receptors, IL-18 (IGIF), IL-18 receptors, IL-1alpha, IL-1beta, IL-1 receptors, IL-2, IL-2 receptors, IL-20, IL-20 receptors, IL-21, IL-21 receptors, IL-23, IL-23 receptors, IL-2 receptors, IL-3, IL-3 receptors, IL-31, IL-31 receptors, IL-3 receptors, IL-4, IL-4 receptors IL-5, IL-5 receptors, IL-6, IL-6 receptors, IL-7, IL-7 receptors, IL-8, IL-8 receptors, IL-9, IL-9 receptors, immunoglobulin immune complex, immunoglobulins, INF-alpha, INF-alpha receptors, INF-beta, INF-beta receptors, INF-gamma, INF-gamma receptors, IFN type-I , IFN type-I receptor, influenza, inhibin, Inhibin α, Inhibin β, iNOS, insulin, Insulin A-chain, Insulin B-chain, Insulin-like growth factor 1, insulin-like growth factor 2, insulin-like growth factor binding proteins, integrin, integrin alpha2, integrin alpha3, integrin alpha4, integrin alpha4/beta1, integrin alpha-V/beta-3, integrin alpha-V/beta-6, integrin alpha4/beta7, integrin alpha5/beta1, integrin alpha5/beta3, integrin alpha5/beta6, integrin alphaσ (alphaV), integrin alphaθ, integrin beta1, integrin beta2, integrin beta3(GPIIb-IIIa), IP-10, I-TAC, JE, kalliklein, Kallikrein 11, Kallikrein 12, Kallikrein 14, Kallikrein 15, Kallikrein 2, Kallikrein 5, Kallikrein 6, Kallikrein L1, Kallikrein L2, Kallikrein L3, Kallikrein L4, kallistatin, KC, KDR, Keratinocyte Growth Factor (KGF), Keratinocyte Growth Factor-2 (KGF-2), KGF, killer immunoglobulin-like receptor, kit ligand (KL), Kit tyrosine kinase, laminin 5, LAMP, LAPP (Amylin, islet-amyloid polypeptide), LAP (TGF- 1), latency associated peptide, Latent TGF-1, Latent TGF-1 bp1, LBP, LDGF, LDL, LDL receptor, LECT2, Lefty, Leptin, leutinizing hormone (LH), Lewis-Y antigen, Lewis-Y related antigen, LFA-1, LFA-3, LFA-3 receptors, Lfo, LIF, LIGHT, lipoproteins, LIX, LKN, Lptn, L-Selectin, LT-a, LT-b, LTB4, LTBP-1, Lung surfactant, Luteinizing hormone, Lymphotactin, Lymphotoxin Beta Receptor, Lysosphingolipid receptor, Mac-1, macrophage-CSF (M-CSF), MAdCAM, MAG, MAP2, MARC, maspin, MCAM, MCK-2, MCP, MCP-1, MCP-2, MCP-3, MCP-4, MCP-I (MCAF), M-CSF, MDC, MDC (67 a.a.), MDC (69 a.a.), megsin, Mer, MET tyrosine kinase receptor family, METALLOPROTEASES, Membrane glycoprotein OX2, Mesothelin, MGDF receptor, MGMT, MHC (HLA-DR), microbial protein, MIF, MIG, MIP, MIP-1α, MIP-1β, MIP-3α, MIP-3β, MIP-4, MK, MMAC1, MMP, MMP-1, MMP-10, MMP-11, MMP-12, MMP-13, MMP-14, MMP-15, MMP-2, MMP-24, MMP-3, MMP-7, MMP-8, MMP-9, monocyte attractant protein, monocyte colony inhibitory factor, mouse gonadotropin-associated peptide, MPIF, Mpo, MSK, MSP, MUC-16, MUC18, mucin (Mud), Muellerian-inhibiting substance, Mug, MuSK, Myelin associated glycoprotein, myeloid progenitor inhibitor factor-1 (MPIF-I), NAIP, Nanobody, NAP, NAP-2, NCA 90, NCAD, N-Cadherin, NCAM, Neprilysin, Neural cell adhesion molecule, neroserpin, Neuronal growth factor (NGF), Neurotrophin-3, Neurotrophin-4, Neurotrophin-6, Neuropilin 1, Neurturin, NGF-beta, NGFR, NKG20, N-methionyl human growth hormone, nNOS, NO, Nogo-A, Nogo receptor, non-structural protein type 3 (NS3) from the hepatitis C virus, NOS, Npn, NRG-3, NT, NT-3, NT-4, NTN, OB, OGG1, Oncostatin M, OP-2, OPG, OPN, OSM, OSM receptors, osteoinductive factors, osteopontin, OX40L, OX40R, oxidized LDL, p150, p95, PADPr, parathyroid hormone, PARC, PARP, PBR, PBSF, PCAD, P-Cadherin, PCNA, PCSK9, PDGF, PDGF receptor, PDGF-AA, PDGF-AB, PDGF-BB, PDGF-D, PDK-1, PECAM, PEDF, PEM, PF-4, PGE, PGF, PGI2, PGJ2, PIGF, PIN, PLA2, Placenta growth factor, placental alkaline phosphatase (PLAP), placental lactogen, pl
asminogen activator inhibitor-1, platelet-growth factor, plgR, PLP, poly glycol chains of different size(e.g. PEG-20, PEG-30, PEG40), PP14, prekallikrein, prion protein, procalcitonin, Programmed cell death protein 1, proinsulin, prolactin, Proprotein convertase PC9, prorelaxin, prostate specific membrane antigen (PSMA), Protein A, Protein C, Protein D, Protein S, Protein Z, PS, PSA, PSCA, PsmAr, PTEN, PTHrp, Ptk, PTN, P-selectin glycoprotein ligand-1, R51, RAGE, RANK, RANKL, RANTES, relaxin, Relaxin A-chain, Relaxin B-chain, renin, respiratory syncytial virus (RSV) F, Ret, reticulon 4, Rheumatoid factors, RLI P76, RPA2, RPK-1, RSK, RSV Fgp, S100, RON-8, SCF/KL, SCGF, Sclerostin, SDF-1, SDF1α, SDF1β, SERINE, Serum Amyloid P, Serum albumin, sFRP-3, Shh, Shiga like toxin II, SIGIRR, SK-1, SLAM, SLPI, SMAC, SMDF, SMOH, SOD, SPARC, sphingosine 1-phosphate receptor 1, Staphylococcal lipoteichoic acid, Stat, STEAP, STEAP-II, stem cell factor (SCF), streptokinase, superoxide dismutase, syndecan-1, TACE, TACI, TAG-72 (tumor-associated glycoprotein-72), TARC, TB, TCA-3, T-cell receptor alpha/beta, TdT, TECK, TEM1, TEM5, TEM7, TEM8, Tenascin, TERT, testicular PLAP-like alkaline phosphatase, TfR, TGF, TGF-alpha, TGF-beta, TGF-beta Pan Specific, TGF-beta RII, TGF-beta RIIb, TGF-beta RIII, TGF-beta Rl (ALK-5), TGF-beta1, TGF-beta2, TGF-beta3, TGF-beta4, TGF-beta5, TGF-I, Thrombin, thrombopoietin (TPO), Thymic stromal lymphoprotein receptor, Thymus Ck-1, thyroid stimulating hormone (TSH), thyroxine, thyroxine-binding globulin, Tie, TIMP, TIQ, Tissue Factor, tissue factor protease inhibitor, tissue factor protein, TMEFF2, Tmpo, TMPRSS2, TNF receptor I, TNF receptor II, TNF-alpha, TNF-beta, TNF-beta2, TNFc, TNF-RI, TNF-RII, TNFRSF10A (TRAIL R1 Apo-2/DR4), TNFRSF10B (TRAIL R2 DR5/KILLER/TRICK-2A/TRICK-B), TNFRSF10C (TRAIL R3 DcR1/LIT/TRID), TNFRSF10D (TRAIL R4 DcR2/TRUNDD), TNFRSF11A (RANK ODF R/TRANCE R), TNFRSF11B (OPG OCIF/TR1), TNFRSF12 (TWEAK R FN14), TNFRSF12A, TNFRSF13B (TACI), TNFRSF13C (BAFF R), TNFRSF14 (HVEM ATAR/HveA/LIGHT R/TR2), TNFRSF16 (NGFR p75NTR), TNFRSF17 (BCMA), TNFRSF18 (GITR AITR), TNFRSF19 (TROY TAJ/TRADE), TNFRSF19L (RELT), TNFRSF1A (TNF Rl CD120a/p55-60), TNFRSF1B (TNF RII CD120b/p75-80), TNFRSF21 (DR6), TNFRSF22 (DcTRAIL R2 TNFRH2), TNFRSF25 (DR3 Apo-3/LARD/TR-3/TRAMP/WSL-1), TNFRSF26 (TNFRH3), TNFRSF3 (LTbR TNF RIII/TNFC R), TNFRSF4 (OX40 ACT35/TXGP1 R), TNFRSF5 (CD40 p50), TNFRSF6 (Fas Apo-1/APT1/CD95), TNFRSF6B (DcR3 M68/TR6), TNFRSF7 (CD27), TNFRSF8 (CD30), TNFRSF9 (4-1 BB CD137/ILA), TNFRST23 (DcTRAIL R1 TNFRH1), TNFSF10 (TRAIL Apo-2 Ligand/TL2), TNFSF11 (TRANCE/RANK Ligand ODF/OPG Ligand), TNFSF12 (TWEAK Apo-3 Ligand/DR3 Ligand), TNFSF13 (APRIL TALL2), TNFSF13B (BAFF BLYS/TALL1/THANK/TNFSF20), TNFSF14 (LIGHT HVEM Ligand/LTg), TNFSF15 (TL1A/VEGI), TNFSF18 (GITR Ligand AITR Ligand/TL6), TNFSF1A (TNF-a Conectin/DIF/TNFSF2), TNFSF1B (TNF-b LTa/TNFSF1), TNFSF3 (LTb TNFC/p33), TNFSF4 (OX40 Ligand gp34/TXGP1), TNFSF5 (CD40 Ligand CD154/gp39/HIGM1/IMD3/TRAP), TNFSF6 (Fas Ligand Apo-1 Ligand/APT1 Ligand), TNFSF7 (CD27 Ligand CD70), TNFSF8 (CD30 Ligand CD153), TNFSF9 (4-1 BB Ligand CD137 Ligand), TNF-α, TNF-β, TNIL-I, toxic metabolite, TP-1, t-PA, Tpo, TRAIL, TRAIL R, TRAIL-R1, TRAIL-R2, TRANCE, transferrin receptor, transforming growth factors (TGF) such as TGF-alpha and TGF-beta, Transmembrane glycoprotein NMB, Transthyretin, TRF, Trk, TROP-2, Trophoblast glycoprotein, TSG, TSLP, Tumor Necrosis Factor (TNF), tumor-associated antigen CA 125, tumor-associated antigen expressing Lewis Y related carbohydrate, TWEAK, TXB2, Ung, uPAR, uPAR-1, Urokinase, VAP-1, vascular endothelial growth factor (VEGF), vaspin, VCAM, VCAM-1, VECAD, VE-Cadherin, VE-Cadherin-2, VEFGR-1 (flt-1), VEFGR-2, VEGF receptor (VEGFR), VEGFR-3 (flt-4), VEGI, VIM, Viral antigens, VitB12 receptor, Vitronectin receptor, VLA, VLA-1, VLA-4, VNR integrin, von Willebrand Factor (vWF), WIF-1, WNT1, WNT10A, WNT10B, WNT11, WNT16, WNT2, WNT2B/13, WNT3, WNT3A, WNT4, WNT5A, WNT5B, WNT6, WNT7A, WNT7B, WNT8A, WNT8B, WNT9A, WNT9B, XCL1, XCL2/SCM-l-beta, XCLl/Lymphotactin, XCR1, XEDAR, XIAP, XPDなどがあげられる。

【0100】

本発明の抗原結合分子に含まれる抗体の2つの可変領域のうち、異なる2つの抗原に結合することができるがこれらの抗原に同時には結合することのできない可変領域が結合する「第1の抗原」と「第2の抗原」としては、例えば、免疫細胞表面分子(例えば、T細胞表面分子、NK細胞表面分子、樹状細胞表面分子、B細胞表面分子、NKT細胞表面分子、MDSC細胞表面分子、マクロファージ類表面分子)、腫瘍細胞、腫瘍の血管、ストローマ細胞等に発現するが、正常組織においても発現している抗原(インテグリン、Tissue factor、VEGFR、PDGFR、EGFR、IGFR、METケモカインレセプター、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、CD44、フィブロネクチン、DR5、TNFRSF等)が好ましく、「第1の抗原」と「第2の抗原」の組合せとしては、第1の抗原と第2の抗原のいずれか一方が、例えば、T細胞上に特異的に発現している分子であり、もう一方の抗原が、T細胞又は他の免疫細胞表面に発現している分子であることがが好ましい。別の態様として、「第1の抗原」と「第2の抗原」の組合せとしては、第1の抗原と第2の抗原のいずれか一方が、例えば、T細胞上に特異的に発現している分子であり、もう一方の抗原が、免疫細胞上で発現している、先で選択した抗原とは異なる分子であることが好ましい。具体的には、例えば、T細胞上に特異的に発現している分子としては、CD3、T細胞レセプターが挙げられる。特にCD3であることが好ましい。本発明の抗原結合分子が結合する、CD3の部位としては、例えば、ヒトCD3の場合、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖配列に存在するエピトープであればいずれのエピトープに結合するものであってもよい。特にヒトCD3複合体のε鎖の細胞外領域に存在するエピトープが好ましい。CD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖の構造は、そのポリヌクレオチド配列が、配列番号:83(NM_000073.2)、85(NM_000732.4)及び87(NM_000733.3)に、そのポリペプチド配列が、配列番号:84(NP_000064.1)、86(NP_000723.1)及び88(NP_000724.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。更にもう一方の抗原としては、Fcγ受容体、TLR、レクチン、IgA、免疫チェックポイント分子、TNFスーパーファミリー分子、TNFRスーパーファミリー分子、NK受容体分子が挙げられる。
また、本発明の抗原結合分子に含まれる抗体の2つの可変領域のうち、もう一方の可変領域が結合する、先の「第1の抗原」と「第2の抗原」とは異なる「第3の抗原」としては、例えば、腫瘍細胞に特異的な抗原が好ましく、細胞の悪性化に伴って発現する抗原の他、細胞が、がん化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も含まれる。具体的には、例えば、ALK受容体(プレイオトロフィン受容体)、プレイオトロフィン、KS 1/4膵臓癌抗原、卵巣癌抗原(CA125)、前立腺酸リン酸、前立腺特異的抗原(PSA)、メラノーマ関連抗原p97、メラノーマ抗原gp75、高分子量メラノーマ抗原(HMW-MAA)、前立腺特異的膜抗原、癌性胚抗原(CEA)、多型上皮ムチン抗原、ヒト乳脂肪球抗原、CEA、TAG-72、CO17-1A、GICA 19-9、CTA-1およびLEAなどの結腸直腸腫瘍関連抗原、バーキットリンパ腫抗原-38.13、CD19、ヒトBリンパ腫抗原-CD20、CD33、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2およびガングリオシドGM3などのメラノーマ特異的抗原、腫瘍特異的移植型細胞表面抗原(TSTA)、T抗原、DNA腫瘍ウイルスおよびRNA腫瘍ウイルスのエンベロープ抗原などのウイルスにより誘導される腫瘍抗原、結腸のCEA、5T4癌胎児トロホブラスト糖タンパク質および膀胱腫瘍癌胎児抗原などの癌胎児抗原α-フェトプロテイン、ヒト肺癌抗原L6およびL20などの分化抗原、線維肉腫の抗原、ヒト白血病T細胞抗原-Gp37、新生糖タンパク質、スフィンゴ脂質、EGFR(上皮増殖因子受容体)などの乳癌抗原、NY-BR-16、NY-BR-16およびHER2抗原(p185HER2)、多型上皮ムチン(PEM)、悪性ヒトリンパ球抗原-APO-1、胎児赤血球に認められるI抗原などの分化抗原、成人赤血球に認められる初期内胚葉I抗原、移植前の胚、胃癌に認められるI(Ma)、乳腺上皮に認められるM18、M39、骨髄細胞に認められるSSEA-1、VEP8、VEP9、Myl、VIM-D5、結腸直腸癌に認められるD156-22、TRA-1-85(血液群H)、精巣および卵巣癌に認められるSCP-1、結腸癌に認められるC14、肺癌に認められるF3、胃癌に認められるAH6、Yハプテン、胚性癌細胞に認められるLey、TL5(血液群A)、A431細胞に認められるEGF受容体、膵臓癌に認められるE1シリーズ(血液群B)、胚性癌細胞に認められるFC10.2、胃癌抗原、腺癌に認められるCO-514(血液群Lea)、腺癌に認められるNS-10、CO-43(血液群Leb)、A431細胞のEGF受容体に認められるG49、結腸癌に認められるMH2(血液群ALeb/Ley)、結腸癌に認められる19.9、胃癌ムチン、骨髄細胞に認められるT5A7、メラノーマに認められるR24、胚性癌細胞に認められる4.2、GD3、D1.1、OFA-1、GM2、OFA-2、GD2、およびM1:22:25:8ならびに4~8細胞段階の胚に認められるSSEA-3およびSSEA-4、皮下T細胞リンパ腫抗原、MART-1抗原、シアリルTn(STn)抗原、結腸癌抗原NY-CO-45、肺癌抗原NY-LU-12変異体A、腺癌抗原ART1、腫瘍随伴性関連脳-精巣癌抗原(癌神経抗原MA2、腫瘍随伴性神経抗原)、神経癌腹部抗原2(NOVA2)、血液細胞癌抗原遺伝子520、腫瘍関連抗原CO-029、腫瘍関連抗原MAGE-C1(癌/精巣抗原CT7)、MAGE-B1(MAGE-XP抗原)、MAGE-B2(DAM6)、MAGE-2、MAGE-4a、MAGE-4bおよびMAGE-X2、癌-精巣抗原(NY-EOS-1)、YKL-40および上記ポリペプチドのいずれかの断片またはこれらに対して修飾された構造等(前記の修飾リン酸基や糖鎖等)、EpCAM、EREG、CA19-9、CA15-3、シリアルSSEA-1(SLX)、HER2、PSMA、CEA、CLEC12A等が挙げられる。

【0101】

本発明の抗原結合分子は当業者に公知の方法により製造することができる。例えば、抗体は以下の方法で作製することができるが、これに限定されるものではない。単離されたポリペプチドをコードする遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合分子を単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO(Chinese hamster ovary cell line)、COS(Monkey kidney cell line)、ミエローマ(Sp2/O、NS0等)、BHK (baby hamster kidney cell line)、HEK293(human embryonic kidney cell line with sheared adenovirus (Ad)5 DNA)、PER.C6 cell (human embryonic retinal cell line transformed with the Adenovirus Type 5 (Ad5) E1A and E1B genes)、Hela、Vero、など(Current Protocols in Protein Science (May, 2001, Unit 5.9, Table 5.9.1))
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
また、抗体は大腸菌(mAbs 2012 Mar-Apr; 4(2): 217-225.)や酵母(WO2000023579)でも作製することができる。大腸菌で作製した抗体は糖鎖が付加されていない。一方、酵母で作製した抗体は糖鎖が付加される。

【0102】

抗体の重鎖をコードするDNAであって、可変領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNA、および抗体の軽鎖をコードするDNAを発現させる。可変領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖又は軽鎖をコードするDNAは、例えば、ある抗原に対して公知の方法を用いて作製された抗体の可変領域をコードするDNAを取得し、該領域中の特定のアミノ酸をコードするコドンが目的の他のアミノ酸をコードするよう、適宜置換を導入することによって得ることが出来る。

【0103】

また、あらかじめ、ある抗原に対して公知の方法を用いて作製された抗体の可変領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたタンパク質をコードするDNAを設計し、該DNAを化学的に合成することによって、可変領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAを得ることも可能である。アミノ酸の置換部位、置換の種類としては、特に限定されるものではない。アミノ酸改変のための好ましい領域としては、可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56、89~97が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、51~56、89~96がより好ましい。
またアミノ酸改変は置換に限られず、欠失、付加、挿入、又は修飾のいずれか、又はそれらの組み合わせであってもよい。

【0104】

また、可変領域中において1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAは、部分DNAに分けて製造することができる。部分DNAの組み合わせとしては、例えば、可変領域をコードするDNAと定常領域をコードするDNA、あるいはFab領域をコードするDNAとFc領域をコードするDNAなどが挙げられるが、これら組み合わせに限定されるものではない。軽鎖をコードするDNAもまた、同様に部分DNAに分けて製造することができる。

【0105】

上記DNAを発現させる方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、重鎖可変領域をコードするDNAを、重鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み重鎖発現ベクターを構築する。同様に、軽鎖可変領域をコードするDNAを、軽鎖定常領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み軽鎖発現ベクターを構築する。これらの重鎖、軽鎖の遺伝子を単一のベクターに組み込むことも出来る。

【0106】

目的とする抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。

【0107】

ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などを用いることができる。

【0108】

本発明の抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。

【0109】

また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4397、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えばリポフェクチン法、リン酸カルシウム法、DEAE-Dextran法を用いて行うことができる。

【0110】

大腸菌発現ベクターの他、例えば、本発明のポリペプチドを製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovirus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。

【0111】

CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、CAGプロモーター(Gene. (1991) 108, 193、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。さらに遺伝子のコピー数を増やす目的でEBNA1タンパク質を共発現させる場合もあるが、この場合、複製開始点OriPを有するベクターを用いる。(Biotechnol Bioeng. 2001 Oct 20;75(2):197-203.、Biotechnol Bioeng. 2005 Sep 20;91(6):670-7.)

【0112】

さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。

【0113】

抗体の回収は、例えば、形質転換した細胞を培養した後、分子形質転換した細胞の細胞内又は培養液より分離することによって行うことが出来る。抗体の分離、精製には、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、C1q、FcRn、プロテインA、プロテインGカラム、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。

【0114】

多重特異性抗体の効率的な作製方法として、Knobs-into-holes技術(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)や電荷的な反発を導入して目的としないH鎖同士の会合を抑制する技術(WO2006/106905)等の、前述の技術を適用することができる。

【0115】

さらに本発明は、異なる2つの第1の抗原と第2の抗原に結合することができる抗体の可変領域であって、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域(第1の可変領域)、及び、該第1の抗原および第2の抗原とは異なる第3の抗原に結合する可変領域(第2の可変領域)を含む、抗原結合分子を製造する方法であって、該第1の可変領域のアミノ酸配列が多様な抗原結合分子ライブラリーを作製する工程を含む、本発明の抗原結合分子を製造する方法を提供する。

【0116】

例えば以下の工程を含む製造方法を挙げることができる:
(i)第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸が改変された抗原結合分子であって、該改変された可変領域のアミノ酸の少なくとも1つが互いに異なる可変領域を含む抗原結合分子のライブラリーを作製する工程、
(ii)作製されたライブラリーの中から、第1の抗原及び第2の抗原に対して結合活性を有するが、当該第1の抗原及び第2の抗原と同時には結合しない可変領域を含む抗原結合分子を選択する工程、
(iii)工程(ii)で選択された抗原結合分子の該可変領域をコードする核酸と、第3の抗原に結合する抗原結合分子の可変領域をコードする核酸とを含む宿主細胞を培養して、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが該第1の抗原と第2の抗原とが同時には結合しない抗体の可変領域、及び、第3の抗原に結合する可変領域を含む、抗原結合分子を発現させる工程、並びに
(iv)前記宿主細胞培養物から抗原結合分子を回収する工程。

【0117】

なお、本製造方法では、工程(ii)が、以下の選択工程であってもよい:
(v) 作製されたライブラリーの中から、第1の抗原及び第2の抗原に対して結合活性を有するが、それぞれ異なる細胞上で発現している第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域を含む抗原結合分子を選択する工程。

【0118】

上記工程(i)で用いられる抗原結合分子は、抗体の可変領域を含んでいれば特に限定されず、Fv、Fab、Fab'等の抗体断片であっても良いし、Fc領域を含む抗体であってもよい。

【0119】

改変されるアミノ酸としては、例えば、第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域のうち、アミノ酸改変によって当該抗原への結合を喪失させないアミノ酸が選択される。

【0120】

本発明のアミノ酸改変は、単独で用いてもよく複数組み合わせて使用してもよい。
複数組み合わせて使用する場合、組み合わせる数は特に限定されず、例えば、2個以上30個以下、好ましくは2個以上25個以下、2個以上22個以下、2個以上20個以下、2個以上15個以下、2個以上10個以下、2個以上5個以下、2個以上3個以下である。
複数組み合わせる場合、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のみに当該アミノ酸改変を加えてもよく、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の双方に適宜振り分けて加えてもよい。

【0121】

アミノ酸改変のための好ましい領域としては、可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56、89~97が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、51~56、89~96がより好ましい。

【0122】

また、アミノ酸残基に改変を加えることには、第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域のうち、上述の領域のアミノ酸をランダムに改変する、或いは、予め所望の抗原に対して結合活性を有していることが知られているぺプチドを上述の領域に挿入することも含まれる。このようにして、改変が加えられた抗原結合分子の中から、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが、これらの抗原に同時には結合することができない可変領域を選択することで、本発明の抗原結合分子を得ることが可能である。予め所望の抗原に対して結合活性を有していることが知られているぺプチドの例としては、上述の表1に示したペプチドが挙げられる。

【0123】

第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが、これらの抗原に同時には結合することができない可変領域かどうか、更に、第1の抗原と第2の抗原のどちらか一方が細胞上に存在し他方が単独で存在する、両方が単独で存在する、或いは、両方が同一細胞上に存在する場合には、第1の抗原と第2の抗原の両方に同時に結合することができるが、それぞれ異なる細胞上で発現している場合には同時には結合することができない可変領域かどうかは、上述の方法に従って、同様に確認することができる。

【0124】

さらに本発明は、異なる2つの第1の抗原と第2の抗原に結合することができる抗体の可変領域であって、第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域(第1の可変領域)を含む、抗原結合分子を製造する方法であって、該第1の可変領域のアミノ酸配列が多様な抗原結合分子ライブラリーを作製する工程を含む、本発明の抗原結合分子を製造する方法を提供する。

【0125】

そのような抗原結合分子の製造方法として、例えば、以下の工程を含む製造方法を挙げることができる:
(i)第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域の少なくとも1つのアミノ酸が改変された抗原結合分子であって、該改変された可変領域のアミノ酸の少なくとも1つが互いに異なる可変領域を含む抗原結合分子のライブラリーを作製する工程、
(ii)作製されたライブラリーの中から、第1の抗原及び第2の抗原に対して結合活性を有するが、当該第1の抗原及び第2の抗原と同時には結合しない可変領域を含む抗原結合分子を選択する工程、
(iii)工程(ii)で選択された抗原結合分子の該可変領域をコードする核酸を含む宿主細胞を培養して、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが該第1の抗原と第2の抗原とが同時には結合しない抗体の可変領域を含む、抗原結合分子を発現させる工程、並びに
(iv)前記宿主細胞培養物から抗原結合分子を回収する工程。
なお、上記アミノ酸改変のための好ましい領域としては、重鎖可変領域が挙げられる。さらに好ましくは可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56、89~97が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、51~56、89~96がより好ましい。

【0126】

なお、本製造方法では、上記工程(ii)が、以下の選択工程であってもよい:
(v) 作製されたライブラリーの中から、第1の抗原及び第2の抗原に対して結合活性を有するが、それぞれ異なる細胞上で発現している第1の抗原と第2の抗原に同時には結合しない可変領域を含む抗原結合分子を選択する工程。

【0127】

上記工程(i)で用いられる抗原結合分子は、抗体の可変領域を含んでいれば特に限定されず、Fv、Fab、Fab'等の抗体断片であっても良いし、Fc領域を含む抗体であってもよい。

【0128】

改変されるアミノ酸としては、例えば、第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域のうち、アミノ酸改変によって当該抗原への結合を喪失させないアミノ酸が選択される。

【0129】

本発明のアミノ酸改変は、単独で用いてもよく複数組み合わせて使用してもよい。
複数組み合わせて使用する場合、組み合わせる数は特に限定されず、例えば、2個以上30個以下、好ましくは2個以上25個以下、2個以上22個以下、2個以上20個以下、2個以上15個以下、2個以上10個以下、2個以上5個以下、2個以上3個以下である。
複数組み合わせる場合、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のいずれか一方のみに当該アミノ酸改変を加えてもよく、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の双方に適宜振り分けて加えてもよい。

【0130】

また、アミノ酸残基に改変を加えることには、第1の抗原又は第2の抗原に結合する抗体の可変領域のうち、上述の領域のアミノ酸をランダムに改変する、或いは、予め所望の抗原に対して結合活性を有していることが知られているぺプチドを上述の領域に挿入することも含まれる。このようにして、改変が加えられた抗原結合分子の中から、第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが、これらの抗原に同時には結合することができない可変領域を選択することで、本発明の抗原結合分子を得ることが可能である。予め所望の抗原に対して結合活性を有していることが知られているぺプチドの例としては、上述の表1に示したペプチドが挙げられる。

【0131】

第1の抗原と第2の抗原に結合することができるが、これらの抗原に同時には結合することができない可変領域かどうか、更に、第1の抗原と第2の抗原のどちらか一方が細胞上に存在し他方が単独で存在する場合、両方が単独で存在する場合、或いは、両方が同一細胞上に存在する場合には第1の抗原と第2の抗原の両方に同時に結合することができるが、それぞれ異なる細胞上で発現している場合には同時には結合することができない可変領域かどうかは、上述の方法に従って、同様に確認することができる。

【0132】

さらに当該製造方法によって製造される抗原結合分子も本発明に含まれる。
本方法によって導入されるアミノ酸改変の種類や範囲は特に限定されるものではない。

【0133】

本発明のライブラリの非限定の一態様として、第1の抗原としてCD3(ヒトCD3の場合、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖)を選択し、CD3と任意の第2の抗原に結合する抗原結合分子からなるライブラリが挙げられる。

【0134】

本明細書において「ライブラリ」もしくは「ライブラリー」とは複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチド、もしくはこれらの配列をコードする核酸、ポリヌクレオチドをいう。ライブラリ中に含まれる複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチドの配列は単一の配列ではなく、互いに配列の異なる抗原結合分子または抗原結合分子を含む融合ポリペプチドである。

【0135】

本発明における一つの実施形態では、本発明の抗原結合分子と異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドが作製され得る。ある実施形態では、融合ポリペプチドはウイルスコートタンパク質、例えばpIII、pVIII、pVII、pIX、Soc、Hoc、gpD、pVIおよびその変異体からなる群から選択されるウイルスコートタンパク質の少なくとも一部と融合され得る。

【0136】

ある実施形態では、本発明の抗原結合分子は、ScFv、Fab断片、F(ab)2またはF(ab')2であり得るため、別の一つの実施形態では、これらの抗原結合分子と異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドであって互いに配列の異なる複数の融合ポリペプチドから主としてなるライブラリが提供される。具体的には、これらの抗原結合分子とウイルスコートタンパク質、例えばpIII、pVIII、pVII、pIX、Soc、Hoc、gpD、pVIおよびその変異体からなる群から選択されるウイルスコートタンパク質の少なくとも一部と融合された融合ポリペプチドであって互いに配列の異なる複数の融合ポリペプチドから主としてなるライブラリが提供される。本発明の抗原結合分子はさらに二量体化ドメインを含み得る。ある実施形態では、前記二量体化ドメインは抗体の重鎖または軽鎖の可変領域とウイルスコートタンパク質の少なくとも一部との間に存在し得る。この二量体化ドメインには、二量体化配列の少なくとも1つ、および/または1つまたは複数のシステイン残基を含む配列が含まれ得る。この二量体化ドメインは、好ましくは重鎖可変領域または定常領域のC末端と連結され得る。二量体化ドメインは、前記抗体可変領域がウイルスのコートタンパク質成分との融合ポリペプチド成分として作製されている(二量体化ドメインの後ろにアンバー終止コドンを有さない)かどうかによって、または、前記抗体可変領域が主にウイルスコートタンパク質成分を含まずに作製されている(例えば、二量体化ドメインの後にアンバー終止コドンを有する)かどうかによって、様々な構造をとることが可能である。前記抗体可変領域が主にウイルスのコートタンパク質成分との融合ポリペプチドとして作製されるときは、1つまたは複数のジスルフィド結合および/または単一の二量体化配列によって二価提示がもたらされる。

【0137】

本明細書においては、互いに配列の異なる複数の抗原結合分子という記載における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なることを意味する。すなわち、ライブラリ中における互いに異なる配列の数は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数が反映され、「ライブラリサイズ」と指称される場合もある。通常のファージディスプレイライブラリでは106から1012であり、リボゾームディスプレイ法等の公知の技術を適用することによってライブラリサイズを1014まで拡大することが可能である。しかしながら、ファージライブラリのパンニング選択時に使用されるファージ粒子の実際の数は、通常、ライブラリサイズよりも10ないし10,000倍大きい。この過剰倍数は、「ライブラリ当量数」とも呼ばれるが、同じアミノ酸配列を有する個々のクローンが10ないし10,000存在し得ることを表す。よって本発明における「互いに配列の異なる」との用語はライブラリ当量数が除外されたライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なること、より具体的には互いに配列の異なる抗原結合分子が106から1014分子、好ましくは107から1012分子、さらに好ましくは108から1011、特に好ましくは108から1010存在することを意味する。

【0138】

さらに、本発明の、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「から主としてなる」との用語は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、第1及び/又は第2の抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の数が反映される。具体的には、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中に少なくとも104分子存在することが好ましい。また、より好ましくは、本発明はそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも105分子存在するライブラリを提供する。さらに好ましくは、本発明はそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも106分子存在するライブラリを提供する。特に好ましくは、本発明はそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも107分子存在するライブラリを提供する。また、好ましくは、本発明はそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも108分子存在するライブラリを提供する。別の表現では、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、第1及び/又は第2の抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の割合としても好適に表現され得る。具体的には、本発明は、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数の0.1%から80%、好ましくは0.5%から60%、より好ましくは1%から40%、さらに好ましくは2%から20%、特に好ましくは4%から10%含まれるライブラリを提供する。融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子またはベクターの場合も、上記と同様、分子の数や分子全体における割合で表現され得る。また、ウイルスの場合も、上記と同様、ウイルス個体の数や個体全体における割合で表現され得る。

【0139】

本明細書において「ファージディスプレイ」は、変異体ポリペプチドをファージ、例えば繊維状ファージの粒子表面でコートタンパク質の少なくとも一部と融合したタンパク質として提示する手法である。ファージディスプレイの有用さは、ランダム化タンパク質変異体の大きなライブラリから対象抗原と高親和性で結合する配列を迅速に、効率的に選別できることにある。ファージ上のペプチドおよびタンパク質ライブラリの提示は、何百万ものポリペプチドを特異的結合特性に関してスクリーニングするために利用されてきた。多価ファージディスプレイ方法は、繊維状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIとの融合を通して小さなランダムペプチドおよび小タンパク質を提示するために利用されてきた(WellsおよびLowman(Curr.Opin.Struct.Biol. (1992) 3, 355-362)とその中の引用文献)。一価のファージディスプレイでは、タンパク質またはペプチドのライブラリが遺伝子IIIまたはその一部に融合され、ファージ粒子が融合タンパク質の1個または0個のコピーを提示するように野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で、低レベルで発現される。アビディティー効果は多価のファージと比較して低下しているので、選別は内在性のリガンド親和性に基づいておりファージミドベクターが使われるが、このベクターはDNA操作を単純化する(LowmanおよびWells、Methods:A Companion to Methods in Enzymology (1991) 3, 205-216)。

【0140】

「ファージミド」は、細菌の複製起点、例えばColE1およびバクテリオファージの遺伝子間領域のコピーを有するプラスミドベクターである。ファージミドには、いかなる公知のバクテリオファージ、例えば繊維状バクテリオファージおよびラムダ型バクテリオファージのものも適宜使用され得る。プラスミドは、通常、抗生物質耐性の選択マーカーも含む。これらのベクターにクローニングされたDNA断片は、プラスミドとして増殖することができる。これらのベクターが導入された細胞がファージ粒子の生産のために必要なすべての遺伝子を備えているとき、プラスミドの複製様式はローリングサークル複製に変化し、プラスミドDNAの1つの鎖のコピーとパッケージファージ粒子を生成する。ファージミドは感染性または非感染性ファージ粒子を形成することができる。この用語は、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面で提示されるように遺伝子融合としてこの異種ポリペプチドの遺伝子と結合したファージコートタンパク質遺伝子、またはその断片を含むファージミドを含む。

【0141】

用語「ファージベクター」は、異種遺伝子を含んでいて複製ができるバクテリオファージの二本鎖複製型を意味する。ファージベクターは、ファージ複製およびファージ粒子形成を可能にするファージ複製起点を有する。ファージは好ましくは繊維状バクテリオファージ、例えばM13、f1、fd、Pf3ファージもしくはその誘導体、またはラムダ型ファージ、例えばラムダ、21、phi80、phi81、82、424、434、その他もしくはその誘導体である。

【0142】

「オリゴヌクレオチド」は、公知の方法(例えば、固相手法、例えばEP266032に記載されている手法を利用したリン酸トリエステル、亜リン酸塩、またはホスホラミダイト化学、またはFroeshlerら(Nucl.Acids.Res. (1986) 14, 5399-5407)に記載されているデオキシヌクレオチドH-ホスホン酸塩中間体を通した方法)によって化学的に合成される短い、一本鎖または二本鎖のポリデオキシヌクレオチドである。他の方法には、以下に記載のポリメラーゼ連鎖反応および他のオートプライマー法、および固体担体上のオリゴヌクレオチド合成が含まれる。これらの方法のすべては、Engelsら(Agnew.Chem.Int.Ed.Engl. (1989) 28, 716-734)に記載されている。遺伝子のすべての核酸配列が公知ならば、またはコード鎖と相補的な核酸の配列が利用できるならばこれらの方法が使われる。あるいは、対象アミノ酸配列が公知ならば、各アミノ酸残基の公知で好ましいコード残基を使って可能な核酸配列が適宜推測され得る。オリゴヌクレオチドは、ポリアクリルアミドゲルもしくは分子サイジングカラムで、または沈殿法によって精製することができる。

【0143】

用語「融合タンパク質」および「融合ポリペプチド」とは、共有結合で互いに結合された2つの部分を持つポリペプチドをいい、各部分は異なる特性を有するポリペプチドである。この特性は、例えばin vitroまたはin vivo活性などの生物学的性質であり得る。また、この特性は、単一の化学的または物理的性質、例えば対象抗原との結合、反応の触媒などでもあり得る。この2つの部分は、単一のペプチド結合によって直接、または1つまたは複数のアミノ酸残基を含んでいるペプチドリンカーを介して結合され得る。通常、この2つの部分とリンカーは同じ読取り枠中に存在する。好ましくは、ポリペプチドの2つの部分は異種または異なるポリペプチドから得られる。

【0144】

用語「コートタンパク質」はタンパク質のうち、少なくともその一部がウイルス粒子の表面に存在するものをいう。機能上の観点からは、コートタンパク質は宿主細胞でのウイルスの構築過程でウイルス粒子と結合する任意のタンパク質であり、ウイルスが他の宿主細胞に感染するまでそれと結合したままである。コートタンパク質は、主要なコートタンパク質であり得るし、マイナーなコートタンパク質でもあり得る。マイナーなコートタンパク質は、通常ウイルスの外殻に存在するコートタンパク質であり、好ましくは1ビリオンにつき少なくとも約5個、より好ましくは少なくとも約7個、より好ましくは少なくとも約10個かそれ以上のタンパク質のコピーが存在する。主要なコートタンパク質は、1ビリオンにつき数十、数百または数千のコピーが存在し得る。主要なコートタンパク質の例としては、繊維状ファージのp8タンパク質が挙げられる。

【0145】

本発明の非限定の一態様として、ライブラリを作製する方法は以下の6つが例示される。
1. 第1の抗原に結合する抗原結合分子に第2の抗原に結合するペプチド(この用語はポリペプチドおよびタンパク質を含むようにして用いられる)を挿入する方法
2. 抗原結合分子中のループを長く改変(延長)することができる位置に、様々なアミノ酸が出現するようなライブラリを作製して、任意の第2の抗原に対して結合活性を有する抗原結合分子を、ライブラリから抗原への結合活性を指標に取得する方法
3. あらかじめ第一の抗原に対して結合することが知られている抗原結合分子から、部位特異的変異法によって作製した抗体を用いて、第一の抗原との結合活性を維持するアミノ酸を同定し、同定されたアミノ酸が出現するようなライブラリから、任意の第2の抗原に対して結合活性を有する抗原結合分子を、抗原への結合活性を指標に取得する方法
4. 3の方法において、さらに、抗原結合分子中のループを長く改変(延長)することができる位置に様々なアミノ酸が出現するような抗体ライブラリを作製して、任意の第2の抗原に対して結合活性を有する抗原結合分子を、ライブラリから抗原への結合活性を指標に取得する方法
5. 1.2.3.又は4.の方法において、糖鎖付加配列(例えばNxS, NxT、xはP以外のアミノ酸)が出現するように改変し、糖鎖レセプターが認識する糖鎖を付加させる方法(例えばハイマンノース型糖鎖を付加し、ハイマンノースレセプターが認識する。ハイマンノース型糖鎖は抗体発現時にキフネンシンを添加することで得られることが知られている(MAbs. 2012 Jul-Aug;4(4):475-87))
6. 1.2.3.又は4.の方法において、ループ部位や各種アミノ酸へ改変することが可能であった部位にCys、Lysもしくは非天然アミノ酸を挿入または置換して、第2の抗原に結合するドメインを共有結合で付加する方法(Antibody drug conjugateに代表される方法であり、Cys、Lysもしくは非天然アミノ酸へ共有結合で結合させる方法(mAbs 6:1, 34-45; January/February 2014、WO2009/134891A2、Bioconjug Chem. 2014 Feb 19;25(2):351-61))
なお、上記に例示された6つのライブラリ作製方法において、抗原結合分子中のアミノ酸を置換する箇所又は抗原結合分子中にペプチドを挿入する箇所は、抗原結合分子のFab又は可変領域部分が好ましい。好ましい領域としては、可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56、89~97が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、51~56、89~96がより好ましい。

【0146】

上記方法1.に記載された、第1の抗原に結合する抗原結合分子に第2の抗原に結合するペプチドを挿入する方法の一態様として、Angew Chem Int Ed Engl. 2013 Aug 5;52(32):8295-8に例示されるようにG-CSFを挿入する方法も挙げることができる。他の一態様として、挿入されるペプチドは、ペプチドを提示したライブラリから取得可能であるが、さらに天然に存在するタンパク質の全体もしくはその一部を利用することも可能である。

【0147】

第一の抗原であるCD3(ヒトCD3の場合、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖)との結合活性を維持するアミノ酸を同定するためには,例えば,抗原結合に関与すると考えられる部位のアミノ酸改変を行い、1アミノ酸改変抗体を作製して判断することができる。1アミノ酸改変抗体のCD3結合評価には,当業者に公知の方法を適宜選択することが出来るが,例えば、ELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity hom*ogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって測定することができる。

【0148】

CD3との結合活性を維持するアミノ酸を同定するには、改変前の抗体に対して、例えば各種改変体の結合量の比の結果を用いることができる。すなわち、改変前の抗体の結合量をX、1アミノ酸改変体の結合量をYとしたときの、Z(結合量の比)=Y/Xの値を用いることが出来る。Z(結合量の比)が,0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、好ましくは、0.8以上のときに、改変前の抗体に対して結合を維持していると考えることができる。これらの結合を維持しているアミノ酸が出現するように、抗体ライブラリを作製することができる。

【0149】

ECM(Extracellular matrix;細胞外マトリックス)は、細胞外の構成成分の一つであり、生体内の様々な部位に存在している。そのため、ECMに強く結合する抗体は血中動態が悪くなる(半減期が短くなる)ことが知られている(WO2012093704A1)。そこで、抗体ライブラリで出現するアミノ酸についても、ECM結合が増強されないアミノ酸を選択することが好ましい。

【0150】

ECM結合が増強されないアミノ酸を選択するには、例えば、参考実施例2の方法に従ってECM結合を評価し、各改変体のECM結合値(ECL response;ECL反応の値)をMRA(H鎖配列番号:57、L鎖配列番号:58)の抗体ECM結合値で割った値を用いることができる。当該値は、複数改変によるECM結合増強の効果を考慮し、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍までを有効として採用することができるが、好ましくは10倍までを有効としてライブラリに採用することができる。このように選択されたアミノ酸が出現するように、抗体ライブラリを作製することができる。

【0151】

なお、これに限定されることはないが、CDR3へのペプチド挿入が6アミノ酸である場合に、CDR3の伸長したループ内に正電荷を側鎖に持つアミノ酸が多く含まれるとECMへの結合が増強されることから、ループ内に3個以上の正電荷を側鎖に持つアミノ酸が出現しないことが好ましい。

【0152】

本発明のライブラリは、ライブラリの多様性を増強させるために、可変領域に、ペプチドを挿入することができる。ペプチド挿入のための好ましい領域としては、可変領域中の溶媒に露出している領域およびループ領域が挙げられる。中でも、CDR1、CDR2、CDR3、FR3領域、ループ領域が好ましい。具体的には、H鎖可変領域のKabatナンバリング31~35、50~65、71~74、95~102、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、50~56、89~97が好ましく、H鎖可変領域のKabatナンバリング31、52a~61、71~74、97~101、L鎖可変領域のKabatナンバリング24~34、51~56、89~96がより好ましい。さらに好ましくは、H鎖可変領域のKabatナンバリング99-100の領域である。また、アミノ酸改変時に、抗原との結合活性を上昇させるアミノ酸をあわせて導入しても良い。

【0153】

本発明の非限定の一態様として、挿入されるペプチドの長さは、1~3アミノ酸、4~6アミノ酸、7~9アミノ酸、10~12アミノ酸、13~15アミノ酸、15~20アミノ酸、21-25アミノ酸が挙げられるが、好ましくは1~3アミノ酸、4~6アミノ酸、7~9アミノ酸である。

【0154】

ライブラリの多様性を増強させるためのペプチドの挿入箇所と長さの検討は、ペプチドを挿入した分子を作製し、当該分子のCD3結合を評価することによって実施することができる。評価には当業者に公知の方法を適宜選択することが出来るが,例えば、ELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity hom*ogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって測定することができる。

【0155】

本発明の非限定の一態様として、CD3と第2の抗原に結合する抗体取得のための抗体ライブラリは以下の様にデザインすることができる。
ステップ1:CD3結合能が保持されているアミノ酸を選択(CD3結合量が未改変抗体の80%以上であること)
例えば、ステップ1で選択されたアミノ酸が出現するように、CD3と第2の抗原に結合する抗体取得のためのライブラリを作製することができる。

【0156】

本発明の非限定の一態様として、CD3と第2の抗原に結合する抗体取得のための抗体ライブラリは以下の様にデザインすることができる。
ステップ1:CD3結合能が保持されているアミノ酸を選択(CD3結合量が未改変抗体の80%以上であること)
ステップ2:H鎖CDR3の99-100(Kabat numbering)の間にアミノ酸を挿入
例えば、ステップ1に加えてステップ2でCDR3領域にアミノ酸を挿入することにより、ライブラリの多様性を増強させた、CD3と第2の抗原に結合する抗体取得のためのライブラリを作製することができる。

【0157】

本発明の非限定の一態様として、CD3と第2の抗原に結合する抗体取得のための抗体ライブラリは以下の様にデザインすることができる。
ステップ1:CD3結合能が保持されているアミノ酸を選択(CD3結合量が未改変抗体の80%以上であること)
ステップ2:ECM結合が改変前よりもMRAと比較して10倍以内であるアミノ酸を選択
ステップ3:H鎖CDR3の99-100(Kabat numbering)の間にアミノ酸挿入
例えば、ステップ1及び3に加えて、ステップ2を加えることで、ライブラリで出現するアミノ酸についても、ECM結合が増強されないアミノ酸を選択することができるが、この手法に限定されることはない。また、ステップ2を経ないライブラリ設計であっても、ライブラリから取得された抗原結合分子に対してECM結合を測定し、評価することが可能である。

【0158】

本発明の非限定の一態様として、CD3(CD3ε)結合抗体のテンプレート配列としてVH領域CE115HA000(配列番号:52)を用いた場合、ライブラリデザインに利用されるアミノ酸としては、重鎖可変領域に含まれるKabatナンバリング11位、31位、52a位、52b位、52c位、53位、54位、56位、57位、61位、72位、78位、98位、99位、100位、100a位、100b位、100c位、100d位、100e位、100f位、100g位、101位のうちいずれか一つ以上のアミノ酸等が例示され得る。
VH領域CE115HA000(配列番号:52)に、V11L/L78Iのアミノ酸改変を加えた上記ライブラリが好ましいがこれに限定されることはない。さらに、VH領域CE115HA000(配列番号:52)に、V11L/D72A/L78I/D101Qのアミノ酸改変を加えた上記ライブラリが好ましいがこれに限定されることはない。

【0159】

本発明の非限定の一態様として、CD3(CD3ε)結合抗体のテンプレート配列としてVL領域GLS3000(配列番号:53)を用いた場合、ライブラリデザインに利用されるアミノ酸としては、軽鎖可変領域に含まれるKabatナンバリング24位、25位、26位、27位、27a位、27b位、27c位、27e位、30位、31位、33位、34位、51位、52位、53位、54位、55位、56位、74位、77位、89位、90位、92位、93位、94位、96位、107位のうちいずれか一つ以上のアミノ酸等が例示され得る。

【0160】

本発明におけるライブラリを設計する(デザインする)とは、例えばNNKやTRIM Library等(Gonzalez-Munoz A et al. MAbs 2012, Lee CV et al. J Mol Biol. 2004, Knappik A. et al. J Mol Biol. 2000, Tiller T et al. MAbs 2013)の公知のライブラリ技術を利用して、特定部位のアミノ酸が所望のアミノ酸に改変されている抗原結合ドメインまたは抗原結合ドメインを含む抗原結合分子の複数の改変体を含むライブラリを設計することが包含されるが、特にこの態様に限定されるものではない。

【0161】

本発明における「1または複数のアミノ酸」とは、特にアミノ酸の数を限定されることはなく、2種類以上のアミノ酸、5種類以上のアミノ酸、10種類以上のアミノ酸、15種類以上のアミノ酸又は20種類のアミノ酸であってもよい。

【0162】

融合ポリペプチドの提示に関して、抗原結合分子の可変領域の融合ポリペプチドは、細胞、ウイルスまたはファージミド粒子の表面で様々な態様で提示され得る。これらの態様には、単鎖Fv断片(scFv)、F(ab)断片およびこれらの断片の多価の形態が含まれる。多価の形態は、好ましくはScFv、FabまたはF(ab')の二量体であり、これらは本明細書では(ScFv)2、F(ab)2およびF(ab')2とそれぞれ指称される。多価の形態の提示が好まれる理由の一つは、多価の形態の提示によって、通常は低親和性のクローンの同定が可能となる点、または、選択過程で稀なクローンのより効率的な選択を可能にする複数の抗原結合部位を有する点であると考えられる。

【0163】

バクテリオファージの表面で抗体断片を含んでいる融合ポリペプチドを提示させる方法は当技術分野で公知であり、例えばWO1992001047および本明細書で記載されている。他にもWO1992020791、WO1993006213、WO1993011236および1993019172では関連した方法が記載されており、当業者はこれらの方法を適宜使用することが可能である。他の公知文献(H.R.Hoogenboom & G.Winter (1992) J. Mol. Biol. 227, 381-388、WO1993006213およびWO1993011236)では、ファージ表面で提示された様々な抗原に対する、人工的に再配置された可変領域遺伝子レパートリーによる抗体の同定が示されている。

【0164】

scFvの態様での提示のためにベクターが構築される場合、抗原結合分子の軽鎖可変領域および重鎖可変領域をコードしている核酸配列がこのベクターに含まれる。一般的には、抗原結合分子の重鎖可変領域をコードする核酸配列は、ウイルスコートタンパク質構成成分に融合される。抗原結合分子の軽鎖可変領域をコードしている核酸配列は、ペプチドリンカーをコードしている核酸配列によって抗原結合分子の重鎖可変領域に連結される。ペプチドリンカーは、一般的に約5から15個のアミノ酸を含む。任意に、例えば精製または検出に役立つ標識をコードしている他の配列が、抗原結合分子の軽鎖可変領域もしくは抗原結合分子の重鎖可変領域のいずれかまたは両方をコードしている核酸配列の3'末端に融合され得る。

【0165】

F(ab)の態様での提示のためにベクターが構築される場合、抗原結合分子の可変領域および抗原結合分子の定常領域をコードする核酸配列がこのベクターに含まれる。軽鎖可変領域をコードする核酸は、軽鎖定常領域をコードする核酸配列に融合される。抗原結合分子の重鎖可変領域をコードする核酸配列は、重鎖定常CH1領域をコードする核酸配列に融合される。一般的には、重鎖可変領域および定常領域をコードしている核酸配列は、ウイルスコートタンパク質のすべてまたは一部をコードしている核酸配列に融合される。重鎖可変領域および定常領域は好ましくはウイルスコートタンパク質の少なくとも一部との融合体として発現され、軽鎖可変領域および定常領域は、重鎖ウイルスコート融合タンパク質とは別々に発現される。重鎖および軽鎖は互いと結合するが、その結合は共有結合でも非共有結合でもあり得る。任意に、例えば精製または検出に役立つポリペプチド標識をコードしている他の配列が、抗原結合分子の軽鎖定常領域をコードしている核酸配列の3'末端または抗原結合分子の重鎖定常領域をコードしている核酸配列の3'末端のいずれかまたは両方に融合され得る。

【0166】

宿主細胞へのベクターの導入に関して、前記のように構築されたベクターは、増幅および/または発現のために宿主細胞に導入される。ベクターは、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿などを含む公知の形質転換法によって、宿主細胞に導入され得る。ベクターがウイルスのような感染性の粒子である場合、ベクター自体が宿主細胞に侵入する。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが挿入されている複製可能な発現ベクターによる宿主細胞のトランスフェクションおよび公知の手法によるファージ粒子の生産によって、融合タンパク質がファージ粒子の表面に提示される。

【0167】

複製可能な発現ベクターは、様々な方法を使用して宿主細胞に導入され得る。非限定な一実施態様では、ベクターはWO2000106717に記載されているようにエレクトロポレーション法を使って細胞に導入され得る。細胞は標準の培養液中で任意に約6ないし48時間(または600 nmにおけるODが0.6ないし0.8になるまで)、37℃で培養し、次に培養液を遠心分離することによって(例えばデカンテーションにより)培養上清が取り出される。精製の初期段階では、好ましくは緩衝液(例えば1.0 mMのHEPES(pH7.4))中に細胞ペレットが再懸濁される。次に再度の遠心分離によって懸濁液から上清が取り出される。得られた細胞ペレットは例えば5-20%V/Vに希釈されたグリセリンに再懸濁される。再度遠心分離によって懸濁液から上清を取り除くことによって細胞ペレットが得られる。当該細胞ペレットを水または希釈されたグリセリンの中に再懸濁することによって得られる懸濁液の菌体濃度の測定値にもとづいて、最終的な菌体濃度が水または希釈されたグリセリンを用いて所望の濃度に調製される。

【0168】

例えば、好ましい受容細胞として、エレクトロポレーション応答能のある大腸菌株SS320(Sidhuら(Methods Enzymol. (2000) 328, 333-363))が挙げられる。大腸菌株SS320は、稔性エピソーム(F'プラスミド)またはXL1-BLUEをMC1061細胞に移転するのに十分な条件の下で、MC1061細胞をXL1-BLUE細胞と交接させて調製された。ATCC(10801 University Boulevard, Manassas, Virginia)に寄託された大腸菌株SS320に対して寄託番号98795が与えられている。この菌株でのファージ複製を可能にするいかなるF'エピソームでも、本発明で用いられ得る。適切なエピソームはATCCに寄託されている株から入手可能であるし、または市販品も入手可能である(TG1, CJ236、CSH18、DHF'、ER2738、JM101、JM103、JM105、JM107、JM109、JM110、KS1000、XL1-BLUE、71-18等)。

【0169】

エレクトロポレーションでより高いDNA濃度(約10倍)を使用すると、形質転換率が向上し、宿主細胞に形質転換されるDNAの量が増加する。高い菌体濃度の使用も効率を高める(約10倍)。移転されたDNA量の増加により、より大きな多様性を有し、配列の異なる独立クローンの数が大きなライブラリが作製され得る。形質転換細胞は、通常、抗生物質を含む培地上の増殖の可否によって選択される。

【0170】

さらに本発明は、本発明の抗原結合分子をコードする核酸を提供する。本発明の該核酸はDNA、RNAなど、如何なる形態でもよい。

【0171】

さらに本発明は、上記本発明の核酸を含むベクターを提供する。ベクターの種類はベクターが導入される宿主細胞に応じて当業者が適宜選択することができ、例えば上述のベクターを用いることができる。

【0172】

さらに本発明は、上記本発明のベクターにより形質転換された宿主細胞に関する。宿主細胞は当業者が適宜選択することができ、例えば上述の宿主細胞を用いることができる。

【0173】

また、本発明は、本発明の抗原結合分子及び医学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、本発明の抗原結合分子に加えて医薬的に許容し得る担体を導入し、公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る溶液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。

【0174】

注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。

【0175】

油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。 投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。

【0176】

また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。ポリペプチドまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。

【0177】

また、本発明は、本発明の抗原結合分子を投与する工程を含む、がんの治療方法、がんの治療において使用するための本発明の抗原結合分子、がんの治療剤の製造における本発明の抗原結合分子の使用、及び本発明の抗原結合分子を使用する工程を含む、がんの治療剤を製造するためのプロセスを提供する。

【0178】

なお本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。 アラニン:Ala:A アルギニン:Arg:R アスパラギン:Asn:N アスパラギン酸:Asp:D システイン:Cys:C グルタミン:Gln:Q グルタミン酸:Glu:E グリシン:Gly:G ヒスチジン:His:H イソロイシン:Ile:I ロイシン:Leu:L リジン:Lys:K メチオニン:Met:M フェニルアラニン:Phe:F プロリン:Pro:P セリン:Ser:S スレオニン:Thr:T トリプトファン:Trp:W チロシン:Tyr:Y バリン:Val:V

【0179】

本明細書に記載の1又は複数の態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。

【0180】

なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。

【0181】

本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。

【実施例

【0182】

〔実施例1〕CD3(第1の抗原)および別の抗原(第2の抗原)に結合し、異なる細胞上のCD3(第1の抗原)および当該別の抗原(第2の抗原)に同時には結合しない改変免疫グロブリン可変(Fab)領域のコンセプト
免疫グロブリンが、2分子以上の活性型FcγRへ同時に結合する、あるいは、別の抗原と活性型FcγRへ同時に結合することによって、活性化FcγRの架橋反応が起こると、FcγRのITAMシグナルが伝達され、免疫細胞の活性化が起こる可能性が考えられる。IgG型の抗体1分子は、上記の通り、1分子のFcγRにしか結合できないため、抗原存在下でのみ、2分子以上の活性型FcγRが架橋され、免疫細胞の活性化が起こる。

【0183】

また、IgG型の抗体が可変領域(Fab)で抗原と結合した場合、同時にFc領域で1分子のFcγRに結合することが可能であることから、当該抗原が発現している細胞とFcγR発現細胞間の架橋が起こる。抗原が発現している細胞によっては、抗原とFcγRの架橋が好ましくない場合も存在する。具体的には、例えば抗原がCD3である場合、T細胞がFcγR発現細胞と架橋することによってサイトカインリリース等の免疫活性化が起こるような場合である(J. Immunol. (1999) Aug 1, 163(3), 1246-52)。そのような場合は、Fc領域に改変を導入することによって、FcγRに対する結合活性を無くし、抗原とFcγRの架橋反応を防ぐことが可能である(Advanced Drug Delivery Reviews (2006) 58, 640- 656)。同様に、IgG型の抗体の抗原が、CD40、OX40、CD27などのTNFRスーパーファミリー分子、CD3とTLR2、4、8、9などのTLRなどである場合も、FcγRを介して架橋が起こると、全身で免疫の活性化が生じるため、別の細胞に発現するこれらの分子に同時に結合することは好ましくない。

【0184】

一方、これまでの多重特異性抗体は、複数の抗原に同時に結合するが、抗原の組み合わせによっては、複数の抗原に同時に結合することが好ましくない場合も存在する。例えば、接着分子として知られているインテグリンαvβ3は、多くのがん細胞および腫瘍の周りの血管に発現していることから、腫瘍をターゲッティングする標的分子として有用( R. Haubner, PLoS Med., 2,e70(2005))であるが、一方でさまざまな正常細胞にも発現していることが知られている(Thromb Haemost. 1998 Nov;80(5):726-34.)。したがって、多重特異性抗体が、CD3とインテグリンαvβ3の両方に同時に結合してしまうと、正常細胞がT細胞による強力な細胞傷害活性によって傷害されてしまう可能性が考えられる。

【0185】

そこで、このような好ましくない架橋反応を制御する方法として、1つの可変(Fab)領域において、その一部分で第1の抗原に結合し、この結合に関与しない当該可変(Fab)領域の別の部分で第2の抗原に結合する可変領域(Dual Binding Fab)が考えられた(図1)。このとき、図1に示す通り、一つの可変(Fab)領域の中の近接した二つの部分がそれぞれの抗原への結合に必須である場合、第1の抗原が結合すると第2の抗原の結合が阻害され、同様に第2の抗原の結合が結合すると第1の抗原の結合が阻害される。したがって、このようなDual Binding Fabの性質を有する改良抗体は、第1の抗原及び第2の抗原に同時には結合することが出来ないため、第1の抗原と第2の抗原の架橋反応は起こらないと考えられた(図2)。また、第1の抗原と第2の抗原が、可溶型タンパクのように細胞膜上に発現していない、或いは、両方が同一細胞上に存在する場合には、第1の抗原と第2の抗原の両方に同時に結合することができるが、それぞれ異なる細胞上で発現している場合には同時には結合せず、二つの細胞を架橋しない場合もDual Binding Fabと考えられる(図3)。一方、もう一方の可変(Fab)領域と結合する抗原(第3の抗原)は、第1の抗原と架橋反応が起こり(図4)、また、第2の抗原とも架橋反応が起こると考えられる(図5)。当該抗体の定常領域としては、FcγRに結合するFc領域を用いることもできるし、FcγRに対する結合活性を低減させたFc領域を用いることもできる。
このようなDual Binding Fabの性質を利用すれば、例えば抗体を介してT細胞をリダイレクトすることにより癌抗原を発現している癌細胞を傷害させる技術に、さらに癌組織中インテグリンへのターゲット機能を持たせることにより、より癌特異性を高めることが可能となる。

【0186】

すなわち、可変(Fab)領域を改良して、Dual Binding Fabとすることによって、以下の性質を付与することができれば、図1に示すような作用を有する抗体を創製することが可能である。
1.第1の抗原に対する結合活性を有する
2.第2の抗原に対する結合活性を有する
3.第1の抗原及び第2の抗原に同時には結合しない
なお、「第1の抗原及び第2の抗原に同時には結合しない」には、第1の抗原が発現している細胞と第2の抗原が発現している細胞の2つの細胞を架橋しない、あるいは、それぞれ別々の細胞に発現している第1の抗原と第2の抗原に同時に結合しないこと、さらに、第1の抗原と第2の抗原が、可溶型タンパクのように細胞膜上に発現していない、或いは、両方が同一細胞上に存在する場合には、第1の抗原と第2の抗原の両方に同時に結合することができるが、それぞれ異なる細胞上で発現している場合には同時には結合することができない場合も含まれる。

【0187】

同様に、可変(Fab)領域を改良して、Dual Binding Fabとすることによって、以下の性質を付与することができれば、例えば、図6に示すような作用を有する抗体を創製することが可能である。
1.T細胞上の第1の抗原に対する結合活性を有する
2.抗原提示細胞上の第2の抗原に対する結合活性を有する
3.第1の抗原及び第2の抗原に同時には結合しない

【0188】

〔実施例2〕抗ヒト、カニクイザルCD3ε抗体CE115の作製
(2-1)ヒトCD3、カニクイザルCD3発現細胞免疫ラットを用いたハイブリドーマの作製
SDラット(雌、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)に、ヒトCD3εγまたはカニクイザルCD3εγ発現Ba/F3細胞を以下の通り免疫した。初回免疫時を0日目とすると、0日目にフロイント完全アジュバント(Difco)とともに、5 x 107個のヒトCD3εγ発現Ba/F3細胞を腹腔内投与した。14日目にフロイント不完全アジュバント(Difco)とともに5 x 107個のカニクイザルCD3εγ発現Ba/F3細胞を腹腔内投与し、その後、1週間おきに4回5 x 107個のヒトまたはカニクイザルCD3εγ発現Ba/F3細胞を交互に腹腔内投与した。CD3εγの最終投与1週間後に(49日目)、ブーストとしてヒトCD3εγ発現Ba/F3細胞を静脈内投与し、その3日後に、ラットの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞SP2/0とを、PEG1500(Roche Diagnostics)を用いた常法に従い細胞融合した。融合細胞、すなわちハイブリドーマは、10% FBSを含むRPMI1640培地 (以下、10%FBS/RPMI1640と称す)にて培養した。

【0189】

融合の翌日に、(1)融合細胞を半流動培地(StemCells)に懸濁し、ハイブリドーマの選択培養を行うと共に、ハイブリドーマのコロニー化を実施した。

【0190】

融合後9日目または10日目にハイブリドーマのコロニーをピックアップし、HAT選択培地(10% FBS/RPMI1640、2 vol% HAT 50x concentrate(大日本製薬)、5 vol% BM-Condimed H1(Roche Diagnostics))の入った96-ウェルプレートに、1ウェル当り1コロニーを播種した。3~4日培養後、各ウェルの培養上清を回収し、培養上清中のラットIgG濃度を測定した。ラットIgGが確認できた培養上清について、ヒトCD3εγ発現Ba/F3細胞、もしくはヒトCD3εγを発現しないBa/F3を付着させたcell-ELISAによってヒトCD3εγに特異的に結合する抗体を産生するクローンを選抜した(図7)。さらに、カニクイザルCD3εγ発現Ba/F3細胞を付着させたcell-ELISAを行うことにより、サルCD3εγに対する交差性も評価した(図7)。

【0191】

(2-2)抗ヒト、サルCD3εキメラ抗体の作製
ハイブリドーマ細胞から、RNeasy Mini Kits(QIAGEN)を用いてトータルRNAを抽出し、SMART RACE cDNA Amplification Kit(BD Biosciences)によりcDNAを合成した。作製したcDNAを用いて、PCRにより、抗体の可変領域遺伝子をクローニングベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。CE115 H鎖可変領域(配列番号:13)及びCE115 L鎖可変領域(配列番号:14)のCDR、FRの決定はKabat numberingに従って行った。

【0192】

上記ラット抗体H鎖可変領域とヒト抗体IgG1鎖定常領域とを結合したキメラ抗体H鎖、および上記ラット抗体L鎖可変領域とヒト抗体Kappa鎖定常領域とを結合したキメラ抗体L鎖遺伝子を、動物細胞発現ベクターに組み込んだ。作製した発現ベクターを用いてCE115キメラ抗体の発現および精製を行った(参考実施例1)。

【0193】

(2-3)EGFR_ERY22_CE115の作製
次に、癌抗原(EGFR)に対するIgGを基本骨格とし、片方のFabをCD3εに対する結合ドメインに置き換えた形の分子を作製した。この際、基本骨格とするIgGのFcとしては、上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ受容体)への結合性が減弱されたサイレント型Fcを用いた。EGFRに対する結合ドメインとして、Cetuximabの可変領域であるCetuximab-VH(配列番号:15)、Cetuximab-VL(配列番号:16)を使用した。抗体H鎖定常領域として、IgG1のC末端のGly及びLysを除去したG1d、G1dにD356K及びH435Rの変異を導入したA5、並びにG1dにK439Eの変異を導入したB3を使用し、それぞれCetuximab-VHと組み合わせたCetuximab-VH-G1d(配列番号:17)、Cetuximab-VH-A5(配列番号:18)、Cetuximab-VH-B3(配列番号:19)を、参考実施例1の方法にしたがって調製した。なお、抗体H鎖定常領域の名称をH1とした場合、可変領域にCetuximab-VHを持つ抗体のH鎖に対応する配列はCetuximab-VH-H1のように示した。
ここで、アミノ酸の改変を示す場合には、D356Kのように示した。最初のアルファベット(D356KのDに該当)は、改変前のアミノ酸残基を一文字表記で示した場合のアルファベットを意味し、それに続く数字(D356Kの356に該当)はその改変箇所のEUナンバリングを意味し、最後のアルファベット(D356KのKに該当)は改変後のアミノ酸残基を一文字表記で示した場合のアルファベットを意味する。

【0194】

EGFRに対するFabのVHドメインとVLドメインを置き換えたEGFR_ERY22_CE115(図8)を作製した。すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、EGFR ERY22_Hk(配列番号:20)、EGFR ERY22_L(配列番号:21)、CE115_ERY22_Hh(配列番号:22)、CE115_ERY22_L(配列番号:23)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。

【0195】

以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
・目的分子:EGFR_ERY22_CE115
・発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:EGFR _ERY22_Hk、EGFR _ERY22_L、CE115_ERY22_Hh、CE115_ERY22_L

【0196】

(2-4)EGFR_ERY22_CE115の精製
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。

【0197】

(2-5)ヒト末梢血単核球を用いた細胞傷害活性の測定
(2-5-1)ヒト末梢血単核球(PBMC:Peripheral Blood Mononuclear Cell)溶液の調製
1,000単位/mLのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク社)をあらかじめ100μL注入した注射器を用い、健常人ボランティア(成人)より末梢血50 mLが採取された。PBS(-)で2倍希釈した後に4等分された末梢血が、15 mLのFicoll-Paque PLUSをあらかじめ注入して遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Cat. No. 227290、Greiner bio-one社)に加えられた。当該分離管の遠心分離(2,150 rpm、10分間、室温)の後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco's Modified Eagle's Medium(SIGMA社、以下10%FBS/D-MEM)で単核球画分の細胞を1回洗浄した後、当該細胞を、その細胞密度が4×106 /mLになるよう、10%FBS/D-MEMを用いて調製した。このように調製した細胞溶液を、ヒトPBMC溶液として以後の試験に用いた。

【0198】

(2-5-2)細胞傷害活性の測定
細胞傷害活性は、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた細胞増殖抑制率で評価した。標的細胞には、SK-HEP-1細胞株にヒトEGFRを強制発現させて樹立したSK-pca13a細胞株を用いた。SK-pca13aをディッシュから剥離し、1×104 cells/wellとなるようにE-Plate 96プレート(ロシュ・ダイアグノスティックス社)に100μL/wellで播き、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを用いて生細胞の測定を開始した。翌日xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーからプレートを取り出し、当該プレートに各濃度(0.004、0.04、0.4、4 nM)に調製した各抗体50μLを添加した。室温にて15分間反応させた後に(2-5-1)で調製したヒトPBMC溶液50μL(2×105 cells/well)を加え、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーに当該プレートを再セットすることによって、生細胞の測定を開始した。反応は、5%炭酸ガス、37℃条件下にて行い、ヒトPBMC添加72時間後のCell Index値から、下式により細胞増殖抑制率(%)を求めた。なお、計算に用いたCell Index値には、抗体添加直前のCell Index値が1となるようにノーマライズした後の数値を用いた。
細胞増殖抑制率(%)=(A-B)×100/(A-1)
Aは抗体を添加していないウェルにおけるCell Index値の平均値(標的細胞とヒトPBMCのみ)、Bは各ウェルにおけるCell Index値の平均値を示す。試験はtriplicateにて行なった。

【0199】

ヒト血液より調製したPBMCをエフェクター細胞として、CE115を用いたEGFR_ERY22_CE115の細胞傷害活性を測定したところ、極めて強い活性が認められた(図9)。

【0200】

〔実施例3〕CD3及びヒトインテグリンαvβ3に結合するが、同時には結合しない抗体の作製
図1~6に示したように、Dual binding Fabとは、可変(Fab)領域でCD3(第1の抗原)と目的の抗原(第2の抗原)に結合するが、CD3(第1の抗原)及び目的の抗原(第2の抗原)に同時には結合しない分子である。第2の抗原と結合するためにCD3(第1の抗原)に結合する抗体のFab領域にアミノ酸改変を導入する場合、通常二つのH鎖もしくはL鎖の両方にアミノ酸改変が導入される。しかし、両方のH鎖もしくはL鎖に改変が導入されると、抗体の二つのFabがそれぞれ、二つの抗原に結合することにより、二つのFabとCD3(第1の抗原)及び目的の抗原(第2の抗原)に同時に結合し、架橋する可能性がある。したがって、抗体の一つのFabは、第3の抗原に結合する、あるいは何にも結合しないFabとし、もう一つのFabをdual binding Fabとし、CD3(第1の抗原)及び目的の抗原(第2の抗原)の架橋反応は起こらないようにする。

【0201】

(3-1)CD3及びヒトインテグリンαvβ3に結合するが、同時には結合しない抗体の作製
接着分子として知られているインテグリンαvβ3は、多くのがん細胞および腫瘍の周りの血管に発現していることから、腫瘍をターゲッティングする標的分子として有用であるが、一方でさまざまな正常細胞にも発現していることが知られている(Thromb Haemost. 1998 Nov;80(5):726-34.)。したがって、CD3とインテグリンαvβ3が同時に結合してしまうと正常細胞がT細胞による強力な細胞傷害活性によって傷害されてしまう可能性が考えられた。そこでCD3とインテグリンαvβ3が同時には結合しない分子が作製できれば、正常細胞に傷害を与えることなく、インテグリンαvβ3を発現する腫瘍細胞に抗EGFR抗体分子をターゲットすることができると考えられた。すなわち、片側の可変領域(Fab)でEGFRに結合し、別の可変領域で、第1の抗原であるCD3に結合、さらに第2の抗原であるインテグリンαvβ3に結合し、且つ、CD3及びインテグリンαvβ3に同時には結合しないdual binding Fab分子の取得を検討した。

【0202】

「インテグリンαvβ3が存在しない条件でCD3とFab領域が結合し、CD3が存在しない条件でインテグリンαvβ3とFab領域が結合する分子であって、CD3に結合した分子はインテグリンαvβ3に結合しない分子、もしくは、インテグリンαvβ3と結合した分子はCD3に結合しない分子」であることを示すことができれば、目的とするdual binding Fabの特性(すなわち、CD3及び第2の抗原に結合でき、且つ、CD3及び第2の抗原に同時には結合しない)を有するdual binding Fab分子を創製することが出来たと言える。

【0203】

(3-2)インテグリンαvβ3と結合するFab領域をもつ抗体の取得

Dual binding Fab分子を取得する方法として、ライブラリーを利用する方法と、タンパク質に対して結合活性を有することが知られているペプチドを挿入する方法が考えられた。インテグリンαvβ3に対して結合活性を有するペプチドとして、RGD(Arg-Gly-Asp)ペプチドが知られている。そこで、片側のFabをEGFR結合ドメインとし、もう片側のFabをCD3結合ドメイン及びインテグリンαvβ3結合ドメインとするヘテロ二量化抗体であって、CD3εに結合する抗体であるCE115(重鎖可変領域 配列番号:13、軽鎖可変領域 配列番号:14)の重鎖のループ部分にRGDペプチドを挿入したヘテロ二量化抗体を参考実施例1に従って作製した。すなわち、EGFR ERY22_Hk(配列番号:20)、EGFR ERY22_L(配列番号:21)及びCE115_ERY22_L(配列番号:23)をそれぞれコードするポリヌクレオチドと共に、以下のいずれかをコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターを作製した:
・CE115_2 ERY22_Hh(配列番号:24、Kabatナンバリング52b-53をそれぞれK及びNに置換)、
・CE115_4 ERY22_Hh(配列番号:25、Kabatナンバリング52b-54をそれぞれS及びNに置換)、
・CE115_9 ERY22_Hh(配列番号:26、Kabatナンバリング52a-52bの間にRGDを挿入)、
・CE115_10 ERY22_Hh(配列番号:27、Kabatナンバリング52b-52cの間にRGDを挿入)、
・CE115_12 ERY22_Hh(配列番号:28、Kabatナンバリング72-73の間にRGDを挿入)、
・CE115_17 ERY22_Hh(配列番号:29、Kabatナンバリング52b-52cをそれぞれK及びSに置換)、
・CE115_47 ERY22_Hh(配列番号:30、Kabatナンバリング98-99の間にRGDを挿入)、
・CE115_48 ERY22_Hh(配列番号:31、Kabatナンバリング99-100の間にRGDを挿入)、
・CE115_49 ERY22_Hh(配列番号:32、Kabatナンバリング100-100aの間にRGDに挿入)。
また、対照として、J. Biotech, 155, 193-202, 2011に報告されている抗体のCH3領域にRGD(Arg-Gly-Asp)ペプチドが挿入された抗体(EH240-Kn125 /EH240-Hl076/L73;配列番号33/34/35)を参考実施例1に従って作製した。CH3領域を介してインテグリンαvβ3と結合するこの分子は、CD3とインテグリンαvβ3に同時に結合することが出来ると考えられる。

【0204】

(3-3)インテグリンαvβ3と抗体の結合確認

Fab領域にRGD(Arg-Gly-Asp)ペプチドが挿入された分子がインテグリンαvβ3と結合するかどうか、電気化学発光法(ECL法)で判定した。具体的には、0.1%BSAおよび0.1g/L塩化カルシウムおよび0.1g/L塩化マグネシウムを含むTBS溶液(希釈(+) 溶液と表記する)で希釈したbiotin-anti human IgG Ab (Southern biotech)と、5 μg/mLもしくは1 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加したインテグリンαvβ3(R&D Systems)を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、4℃で一晩インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAおよび0.1g/L塩化カルシウムおよび0.1g/L塩化マグネシウムを含むTBS溶液(ブロッキング(+) 溶液と表記する)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、0.1g/L塩化カルシウムおよび0.1g/L塩化マグネシウムを含むTBS溶液(TBS(+)溶液と表記する)250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を75μLずつ各ウェルに添加し、室温2時間インキュベートして、biotin-anti human IgG Abをstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBS(+)溶液で3回洗浄し、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0205】

その結果を図11に示す。親抗体であるEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lは、インテグリンαvβ3に対して全く結合活性を示さなかったのに対して、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_2 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_4 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_9 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_10 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_12 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_17 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_47 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_48 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_49 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、はいずれもインテグリンαvβ3との結合が観察された。

【0206】

(3-4)CD3(CD3ε)と抗体の結合確認

次に、前項で作製したインテグリンαvβ3とFab領域で結合する抗体が、CD3に対する結合活性を保持しているかECL法で判定した。具体的には、0.1%BSAを含むTBS溶液(希釈(-) 溶液と表記する)で希釈したbiotin-anti human IgG Ab (Southern biotech)と、5 μg/mLもしくは1 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加したCD3εホモ二量体タンパク質を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、4℃で一晩インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBS溶液(ブロッキング(-) 溶液と表記する)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBS溶液 (-)溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を75μLずつ各ウェルに添加し、室温2時間インキュベートして、biotin-anti human IgG Abをstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBS(-)溶液で3回洗浄し、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0207】

その結果を図12に示す。親抗体であるEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lに加え、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_2 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_4 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_9 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_10 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_12 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_17 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_47 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_48 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_49 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、はいずれもCD3との結合が観察された。

【0208】

(3-5)ECL法によるインテグリンαvβ3とCD3が同時にFab領域に結合しないことの確認

前項までの結果から、インテグリンαvβ3に対して結合活性を有し、かつ、CD3に対して結合活性を有する分子が得られた。次に、前項までに作製されたFab領域がCD3(CD3ε)及びインテグリンαvβ3と同時に結合するか判定した。

【0209】

Fab領域にRGD(Arg-Gly-Asp)ペプチドを挿入した分子がインテグリンαvβ3とCD3に同時に結合する場合、抗体溶液にインテグリンαvβ3とbiotin付加したCD3を加えると、両方の抗原に結合することから、ECL法で検出することができる。具体的には、希釈(+) 溶液で希釈したbiotinを付加したヒトCD3εホモ二量体タンパク質と、10 μg/mLもしくは5 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加したインテグリンαvβ3(R&D Systems)を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、4℃で一晩インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。ブロッキング(+) 溶液をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、0.1g/L塩化カルシウムおよび0.1g/L塩化マグネシウムを含むTBS(+)溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を75μLずつ各ウェルに添加し、室温2時間インキュベートして、biotin-anti human IgG Abをstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBS(+)溶液で3回洗浄し、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0210】

その結果を図13図14に示す。Fab領域にRGD(Arg-Gly-Asp)ペプチドが挿入さたEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_2 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_12 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_17 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lはインテグリンαvβ3とCD3に同時に結合することにより、ECL測定において強いシグナルが検出された。一方で、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_9 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_LとEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_48 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lでは、そのシグナルは弱いものであった(図13)。また、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_4 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_10 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_47 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_49 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_LはいずれもECL測定においてほとんどシグナルが検出されなかった(図14)。すなわち、これらの抗体はCD3と結合すると、インテグリンαvβ3と結合しないことが示唆された。

【0211】

(3-6)ECL法によるインテグリンαvβ3とCD3が同時にFab領域に結合しないことの考察

以上の結果から、一つのFabでCD3(CD3ε)、インテグリンαvβ3にそれぞれ結合し、かつ、CD3(CD3ε)及びインテグリンαvβ3に同時には結合しないdual binding Fab分子の特性を有する抗体を創製することができた。本実施例では、第1の抗原であるCD3に結合する可変領域を有する抗体に対して、当該可変領域に第2の抗原であるインテグリンαvβ3に結合するRGDペプチドをFabに挿入することで、第2の抗原に対する結合活性を付与し、且つ、CD3と第2の抗原に同時には結合しない分子を取得することが出来た。同様の方法で、WO2006036834に例示されているようなタンパク質に対して結合活性を有するペプチドをFab中のループに挿入することで、任意の第2の抗原に対して結合活性を有するdual binding Fab分子を取得することができる。その他、タンパク質に対して結合活性を示すペプチドは、当業者に公知の方法を用いてペプチドライブラリを作製し、所望の活性を有するペプチドを選択することで取得することができる(Pasqualini R., Nature, 1996, 380 (6572) :364-6)。さらに、実施例5で記載したようなFab中のループを長く改変した(延長した)抗原結合分子のライブラリーを用いることで、任意の第2の抗原に対して結合活性を有するdual binding Fab分子を創製することが可能であると考えられる。第1の抗原に対する可変領域は、当業者公知の様々な方法で取得することが可能であることから、このようなライブラリーを用いることで、任意の第1の抗原と任意の第2の抗原に対して結合活性を有し、かつ該第1の抗原及び該第2の抗原に同時には結合することができないdual binding Fab分子を創製することが可能であると言える。

【0212】

以上の結果から、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_4 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_10 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_47 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_49 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lは、CD3及びインテグリンαvβ3に結合し、CD3とインテグリンαvβ3に同時には結合しないことが示された。すなわちEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_4 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_10 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_47 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_49 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lはdual binding Fabを有する分子であり、このような分子を創製することが可能であることが明らかになった。

【0213】

〔実施例4〕CD3及びヒトtoll-like receptor 2 (TLR2)に結合するが、同時には結合しない抗体の作製
(4-1)CD3及びヒトTLR2に結合するが、同時には結合しない抗体の作製
パターン認識受容体として知られているTLR2は、主にマクロファージ、樹状細胞やB細胞などの免疫細胞に発現しており、免疫細胞を活性化する標的分子として有用である。また、TLR2は、上皮細胞や内皮細胞など免疫細胞以外の正常細胞にも発現していることが知られている。がん抗原とCD3を同時に結合することにより、腫瘍環境中にCD3を発現するT細胞がリクルートされ、T細胞によってがん細胞が傷害されるが、同時にがん抗原とTLR2とが同時に結合することにより、腫瘍環境中にTLR2を発現する免疫細胞もリクルートし、活性化できることが考えられた。T細胞によって傷害されたがん細胞を、TLR2によってリクルートされた免疫細胞が取り込み、抗原をプロセシングし、HLAに提示することによりT細胞を活性化することができるため、T細胞をより強力に活性化できるとともに、獲得免疫も誘導できる可能性がある。しかし、CD3とTLR2が同時に結合してしまうと免疫細胞及び正常細胞がT細胞による強力な細胞傷害活性によって傷害されてしまう可能性が考えられた。そこでCD3とTLR2が同時には結合しない分子を作製できれば、TLR2を発現する免疫細胞及び正常細胞に傷害を与えることなく、これらの細胞をリクルートできると考えられた。すなわち、片側の可変領域(Fab)でEGFRに結合し、別の可変領域で、第1の抗原であるCD3に結合し、さらに第2の抗原であるTLR2に結合し、且つ、CD3及びTLR2に同時には結合しないdual binding Fab分子の取得を検討した。

【0214】

「TLR2が存在しない条件でCD3とFab領域が結合し、CD3が存在しない条件でTLR2とFab領域が結合する分子であって、CD3に結合した分子はTLR2に結合しない分子、もしくは、TLR2と結合した分子はCD3に結合しない分子」であることを示すことができれば、目的とするdual binding Fabの特性(すなわち、CD3及び第2の抗原に結合でき、且つ、CD3及び第2の抗原に同時には結合しない)を有するdual binding Fab分子を創製することが出来たと言える。

【0215】

(4-2)TLR2と結合するFab領域をもつ抗体の取得

ヒトTLR2に対して結合活性を有するペプチドとして、RWGYHLRDRKYKGVRSHKGVPRペプチド(配列番号:36)が知られている。そこで、片側のFabをEGFR結合ドメインとし、もう片側のFabをCD3結合ドメイン及びTLR2結合ドメインとするヘテロ二量化抗体であって、CD3εに結合する抗体であるCE115(重鎖可変領域 配列番号:13、軽鎖可変領域 配列番号:14)の重鎖のループ部分にTRL2結合ペプチドを挿入したヘテロ二量化抗体抗体を参考実施例1に従って作製した。すなわち、EGFR ERY22_Hk(配列番号:20)、EGFR ERY22_L(配列番号:21)、及びCE115_ERY22_L(配列番号:23)をそれぞれコードするポリヌクレオチドと共に、以下のいずれかをコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターを作製した:
・CE115_DU21 ERY22_Hh(配列番号:37、Kabatナンバリング52b-52cの間にTRL2結合ペプチドを挿入)、
・CE115_DU22 ERY22_Hh(配列番号:38、Kabatナンバリング52b-52cの間にTRL2結合ペプチドを挿入)、
・CE115_DU26 ERY22_Hh(配列番号:39、Kabatナンバリング72-73の間にTRL2結合ペプチドを挿入)、
・CE115_DU27 ERY22_Hh(配列番号:40、Kabatナンバリング72-73の間にTRL2結合ペプチド挿入)。
また、対照として、TLR2結合ペプチドをCH3領域C末端に付加した抗体(CE115_ ERY22_DU42_Hh, 配列番号:41)、及びTLR2結合ペプチド両端にCys残基を持つペプチドをCH3領域C末端に付加した抗体(CE115_ ERY22_DU43_Hh, 配列番号:42)を参考実施例1に従って作製した。CH3領域を介してTLR2と結合するこの分子は、CD3とTLR2に同時に結合することが出来ると考えられる。

【0216】

(4-3)TLR2と抗体の結合確認

Fab領域にTLR2結合ペプチドが挿入された分子がTLR2と結合するかどうか、電気化学発光法(ECL法)で判定した。具体的には、0.1%BSAを含むTBS溶液(希釈(-) 溶液と表記する)で希釈したbiotin-anti human IgG Ab (Southern biotech)と、5 μg/mLもしくは1 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加したTLR2(abnova)を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、4℃で一晩インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBS溶液(ブロッキング(-) 溶液と表記する)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBS(-)溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を75μLずつ各ウェルに添加し、室温2時間インキュベートして、biotin-anti human IgG Abをstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBS(-)溶液で3回洗浄し、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0217】

その結果を図15に示す。親抗体であるEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lは、TLR2に対して全く結合活性を示さなかったのに対して、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU21 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU22 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU26 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU27 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、はいずれもTLR2との結合が観察された。

【0218】

(4-4)CD3(

CD3ε

)と抗体の結合確認

次に、前項で作製したTLR2とFab領域で結合する抗体が、CD3(CD3ε)に対する結合活性を保持しているかECL法で判定した。具体的には、0.1%BSAを含むTBS溶液(希釈(-) 溶液と表記する)で希釈したbiotin-anti human IgG Ab (Southern biotech)と、5 μg/mLもしくは1 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加したCD3εホモ二量体タンパク質を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、4℃で一晩インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBS溶液(ブロッキング(-) 溶液と表記する)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBS溶液 (-)溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を75μLずつ各ウェルに添加し、室温2時間インキュベートして、biotin-anti human IgG Abをstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBS(-)溶液で3回洗浄し、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0219】

その結果を図16に示す。親抗体であるEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lに加え、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU21 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU22 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU26 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU27 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、はいずれもCD3との結合が観察された。

【0220】

(4-5)ECL法によるTLR2とCD3が同時にFab領域に結合しないことの確認

前項までの結果から、TLR2に対して結合活性を有し、かつ、CD3に対して結合活性を有する分子が得られた。次に、前項までに作製されたFab領域がCD3及びTLR2と同時に結合するか判定した。

【0221】

Fab領域にTLR2結合ペプチドを挿入した分子がTLR2とCD3に同時に結合する場合、抗体溶液にTLR2とbiotin付加したCD3を加えると、両方の抗原に結合することから、ECL法で検出することができる。具体的には、希釈(-) 溶液で希釈したbiotinを付加したhuman CD3εホモ二量体タンパク質と、10 μg/mLもしくは5 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加したTLR2(R&D Systems)を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、4℃で一晩インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。ブロッキング(-) 溶液をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、0.1g/L塩化カルシウムおよび0.1g/L塩化マグネシウムを含むTBS(-)溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を75μLずつ各ウェルに添加し、室温2時間インキュベートして、biotin-anti human IgG Abをstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBS(-)溶液で3回洗浄し、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0222】

その結果を図17に示す。CH3領域にTLR2結合ペプチドを付加したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU42 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU43 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lは、TLR2とCD3に同時に結合することにより、ECL測定において強いシグナルが検出された。一方で、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU21 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU22 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU26 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU27 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_LはいずれもECL測定においてほとんどシグナルが検出されなかった。すなわち、これらの抗体はCD3と結合すると、TLR2と結合しないことが示唆された。

【0223】

(4-6)ECL法によるTLR2とCD3が同時にFab領域に結合しないことの考察

以上の結果から、一つのFabでCD3、TLR2にそれぞれ結合し、かつ、CD3及びTLR2に同時には結合しないdual binding Fab分子の特性を有する抗体を創製することができた。本実施例では、第1の抗原であるCD3に結合する可変領域を有する抗体に対して、当該可変領域に第2の抗原であるTLR2に結合するRWGYHLRDRKYKGVRSHKGVPRペプチドをFabに挿入することで、第2の抗原に対する結合活性を付与し、且つ、CD3と第2の抗原に同時には結合しない分子を取得することが出来た。同様の方法で、WO2006036834に例示されているようなタンパク質に対して結合活性を有するペプチドをFab中のループに挿入することで、任意の第2の抗原に対して結合活性を有するdual binding Fab分子を取得することができる。その他、タンパク質に対して結合活性を示すペプチドは、当業者に公知の方法を用いてペプチドライブラリを作製し、所望の活性を有するペプチドを選択することで取得することができる(Pasqualini R., Nature, 1996, 380 (6572) :364-6))。さらに、実施例5で記載したようなFab中のループを長く改変した(延長した)抗原結合分子のライブラリーを用いることで、任意の第2の抗原に対して結合活性を有するdual binding Fab分子を創製することが可能であると考えられる。第1の抗原に対する可変領域は、当業者公知の様々な方法で取得することが可能であることから、このようなライブラリーを用いることで、任意の第1の抗原と任意の第2の抗原に対して結合活性を有し、該第1の抗原及び該第2の抗原に同時には結合することができない、dual binding Fab分子を創製することが可能であると言える。

【0224】

以上の結果から、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU21 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU22 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU26 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU27 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lは、CD3及びTLR2に結合し、CD3とTLR2に同時には結合しないことが示された。すなわちEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU21 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU22 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU26 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L、EGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_DU27 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_Lはdual binding Fabを有する分子であり、このような分子を創製することが可能であることが明らかになった。

【0225】

〔実施例5〕CD3及び第2の抗原に結合する抗体の作製のための抗体改変
(5-1)第2の抗原に結合しうるペプチドの挿入個所と長さの検討
片側の可変領域(Fab)でがん抗原に結合し、もう一方の可変領域で、第1の抗原であるCD3に結合、さらに第2の抗原に結合し、且つ、CD3及び第2の抗原に同時には結合しないdual binding Fab分子の取得を検討した。片側のFabをEGFR結合ドメインとし、もう片側のFabをCD3結合ドメインとするヘテロ二量化抗体であって、CD3εに結合する抗体であるCE115の重鎖のループ部分にGGSペプチドを挿入したヘテロ二量化抗体を参考実施例1に従って作製した。

【0226】

すなわち、CDR2中のK52BとS52cの間に、GGSを挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE31 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L:((配列番号:20/21/43/23)、GGSGGSペプチド(配列番号:90)を挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE32 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L((配列番号:20/21/44/23)、GGSGGSGGSペプチド(配列番号:91)を挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE33 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L:((配列番号:20/21/45/23)を作製した。同様に、フレームワーク3中のループ状の個所であるD72とD73の間に、GGSを挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE34 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L:((配列番号:20/21/46/23)、GGSGGSペプチド(配列番号:90)を挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE35 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L((配列番号:20/21/47/23)、GGSGGSGGSペプチド(配列番号:91)を挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE36 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L:((配列番号:20/21/48/23)を作製した。またCDR3中のA99とY100の間に、GGSを挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE37 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L:((配列番号:20/21/49/23)、GGSGGSペプチドを挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE38 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L((配列番号:20/21/50/23)、GGSGGSGGSペプチドを挿入したEGFR ERY22_Hk/EGFR ERY22_L /CE115_CE39 ERY22_Hh/ CE115_ERY22_L:((配列番号:20/21/51/23)を作製した。

【0227】

(5-2)GGSペプチドを挿入したCE115抗体のCD3εへの結合確認
作製した各種の抗体がCD3εへの結合性を維持しているかどうかをBiacoreT100によって確認した。CM5チップにストレプトアビジンを介してビオチン化CD3εエピトープペプチドを結合させ、作製した抗体をアナライトとして流し、結合アフィニティーを解析した。

【0228】

その結果を表2に示す。CE35、CE36、CE37、CE38、CE39のCD3εへの結合アフィニティーは、親抗体であるCE115と同等であった。このことから、これらのループ中には、第2の抗原に結合するペプチドの挿入が可能であることが示された。またGGSGGSGGSを挿入したCE36やCE39でも結合アフィニティーが低下しなかったことから、これらの個所では、少なくても9アミノ酸までのペプチド挿入は、CD3εへの結合性に影響を与えないことが示された。

【0229】

【表2】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (2)

【0230】

すなわち、このようなペプチド挿入CE115を用いて、第2の抗原に対して結合する抗体を取得することにより、CD3と第2の抗原に結合できるが同時には結合しない抗体を作製できることが示された。
ここで挿入もしくは置換されるペプチドのアミノ酸配列を、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法に従ってランダムに改変し、上述の方法に従って各改変体の結合活性等を比較し、アミノ酸配列を改変しても目的の活性を示すことのできる挿入、置換個所やそのアミノ酸の種類、長さを決定することでライブラリーを作製することができる。

【0231】

〔実施例6〕CD3及び第2の抗原に結合する抗体の取得のためのライブラリデザイン
(6-1)CD3及び第2の抗原に結合する抗体の取得のための抗体ライブラリについて(Dual Fab Libraryとも呼ぶ)
第1の抗原としてCD3(CD3ε)を選択し、CD3(CD3ε)と任意の第2の抗原に結合する抗体を取得する方法として、以下の6つが例示される。
1.第1の抗原に結合するFabドメインに第2の抗原に結合するペプチドもしくはポリペプチドを挿入する方法(実施例3と4で示されたペプチド挿入以外にも、Angew Chem Int Ed Engl. 2013 Aug 5;52(32):8295-8に例示されるようにG-CSFを挿入する方法がある。)結合するペプチドやポリペプチドは、ペプチドもしくはポリペプチドを提示したライブラリから取得可能であるが、さらに天然に存在するタンパク質の全体もしくはその一部を利用することが可能である。
2.実施例5で示されたようにFab中のループを長く改変(延長)することができる位置に様々なアミノ酸が出現するような抗体ライブラリを作製して任意の第2の抗原に対して結合活性を有するFabを、抗体ライブラリから抗原への結合活性を指標に取得する方法
3.あらかじめCD3に対して結合することが知られているFabドメインから部位特異的変異法によって作製した抗体を用いて、CD3との結合活性を維持するアミノ酸を同定し、同定されたアミノ酸が出現するような抗体ライブラリから任意の第2の抗原に対して結合活性を有するFabを、抗体ライブラリから抗原への結合活性を指標に取得する方法
4.3の方法において、さらに、Fab中のループを長く改変(延長)することができる位置に様々なアミノ酸が出現するような抗体ライブラリを作製して任意の第2の抗原に対して結合活性を有するFabを、抗体ライブラリから抗原への結合活性を指標に取得する方法
5.1.2.3.4.の方法において、糖鎖付加配列(例えばNxS, NxT、xはP以外のアミノ酸)が出現するように改変し、糖鎖レセプターが認識する糖鎖を付加させる方法(例えばハイマンノース型糖鎖を付加し、ハイマンノースレセプターが認識する。ハイマンノース型糖鎖は抗体発現時にキフネンシンを添加することで得られることが知られている(MAbs. 2012 Jul-Aug;4(4):475-87))
6.1.2.3.4の方法において、ループ部位や各種アミノ酸へ改変することが可能であった部位にCys、Lysもしくは非天然アミノ酸を挿入または置換して、第2の抗原に結合するドメイン(ポリペプチドや糖鎖、TLRアゴニストに代表される核酸)を共有結合で付加する方法(Antibody drug conjugateに代表される方法であり、Cys、Lysもしくは非天然アミノ酸へ共有結合で結合させる方法、mAbs 6:1, 34-45; January/February 2014、WO2009/134891A2、Bioconjug Chem. 2014 Feb 19;25(2):351-61に記載されている)
上記の方法を用いて、第1の抗原と第2の抗原と結合し、互いに同時に結合しないDual binding Fabが得られ、任意の第3の抗原と結合するドメイン(もう一方の可変領域と呼び、実施例1に記載されている)とは、当業者公知の方法、例えば共通L鎖、Cross mab、Fab arm exchange法、によって組み合わせることができる。

【0232】

(6-2)部位特異的変異法を用いたCD3(CD3ε)結合抗体の1アミノ酸改変抗体の作製
CD3(CD3ε)結合抗体のテンプレート配列としてVH領域はCE115HA000(配列番号:52)、VL領域はGLS3000(配列番号:53)が選定された。それぞれ、抗原結合に関与すると考えられる部位に参考実施例1に従ってアミノ酸改変を行った。また、H鎖の定常領域はpE22Hh(天然IgG1のCH1以降の配列にL234A, L235A, N297A, D356C, T366S, L368A, Y407Vの改変を加え、C末端のGK配列を欠失させてDYKDDDDK配列(配列番号:89)を付加した配列、配列番号:54)とし、L鎖定常領域はKappa鎖(配列番号:55)を用いた。改変を行った部位は表3に示されている。CD3(CD3ε)結合活性評価のために、1アミノ酸改変抗体はOne arm抗体(天然型のIgGのうち片方のFabドメインを欠損している抗体)として取得した。具体的には、H鎖の改変の場合は、改変されたH鎖が定常領域pE22Hhと連結されたものとKn010G3(天然型IgG1の216番目以降のアミノ酸配列にC220S, Y349C, T366W、H435Rの改変を加えたもの、配列番号:56)とkappa鎖が3'側に連結されたGLS3000を用い、L鎖の改変の場合は改変されたL鎖の3'側にKappa鎖が連結された配列と、H鎖として3'側にpE22Hhが連結されたCE115HA000とKn010G3を用いて、FreeStyle293細胞で発現・精製した(参考実施例1の方法を用いた)。

【0233】

【表3】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (3)

【0234】

(6-3)1アミノ酸改変抗体のCD3結合評価
(6-2)で構築および発現精製された1アミノ酸改変体はBiacoreT200(GE Healthcare)を用いて評価された。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミノカップリング法でCD3εホモ二量体タンパク質を適当量固定化した後、アナライトとして適切な濃度の抗体をインジェクトし、センサーチップ上のCD3εホモ二量体タンパク質と相互作用させた。その後、10 mmol/L Glycine-HCl (pH1.5) をインジェクトし、センサーチップを再生した。測定は25 ℃で行い、ランニングバッファーにはHBS-EP+(GE Healthcare)を用いた。測定した結果を、結合量と測定で得られたセンサーグラムに対してsingle-cycle kinetics model (1:1binding RI=0)を使って解離定数KD (M) を算出した。各パラメーターの算出には Biacore T200 Evaluation Software (GE Healthcare)を用いた。

【0235】

(6-3-1)H鎖の改変
改変前の抗体であるCE115HA000に対して各種H鎖改変体の結合量の比の結果を表4に示す。すなわち、CE115HA000を含む抗体の結合量をX、H鎖1アミノ酸改変体の結合量をYとしたときの、Z(結合量の比)=Y/Xの値である。このとき、図18に示すようにZが0.8未満の場合には、センサーグラムから結合量が非常に少ないことが認められ、正しく解離定数KD (M)が算出できない可能性が示唆された。次に、CE115HA000に対して各種H鎖改変体の解離定数KD (M)の比(=CE115HA000のKD値/改変体のKD値)を表5に示す。
表4に示されたZが0.8以上の場合には、改変前の抗体であるCE115HA000に対して結合を維持していると考えられることから、これらのアミノ酸が出現するようにデザインされた抗体ライブラリがDual Fab Libraryとなりうる。

【0236】

【表4】

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【0237】

【表5】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (5)

【0238】

(6-3-2)L鎖の改変
改変前の抗体であるGLS3000に対して各種L鎖改変体の結合量の比の結果を表6に示す。すなわち、GLS3000を含む抗体の結合量をX、L鎖1アミノ酸改変体の結合量をYとしたときの、Z(結合量の比)=Y/Xの値である。このとき、図18に示すようにZが0.8未満の場合には、センサーグラムから結合量が非常に少ないことが認められ、正しく解離定数KD (M)が算出できない可能性が示唆された。次に、GLS3000に対して各種L鎖改変体の解離定数KD (M)の比を表7に示す。
表6に示されたZが0.8以上の場合には、改変前の抗体であるGLS3000に対して結合を維持していると考えられることから、これらのアミノ酸が出現するようにデザインされた抗体ライブラリがDual Fab Libraryとなりうる。

【0239】

【表6】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (6)

【0240】

【表7】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (7)

【0241】

(6-4)1アミノ酸改変抗体のECM(Extracellular matrix;細胞外マトリックス)結合評価
ECM(Extracellular matrix;細胞外マトリックス)は、細胞外の構成成分の一つであり、生体内の様々な部位に存在している。そのため、ECMに強く結合する抗体は血中動態が悪くなる(半減期が短くなる)ことが知られている(WO2012093704A1)。そこで、抗体ライブラリで出現するアミノ酸についても、ECM結合が増強されないアミノ酸を選択することが好ましい。

【0242】

各H鎖もしくはL鎖改変体は(6-2)に示された方法で抗体が取得された。次に参考実施例2の方法に従ってECM結合が評価された。各改変体のECM結合値(ECL response;ECL反応の値)を同一プレート内もしくは同一実施日のMRA(H鎖配列番号:57、L鎖配列番号:58)の抗体ECM結合値で割った値を表8(H鎖)、表9(L鎖)に示す。表8および9に示されたように幾つかの改変においてはECM結合を増強する傾向が認められた。
表8(H鎖)、表9(L鎖)に示された値のうち、複数改変によるECM結合増強の効果を考慮し、10倍までを有効としてDual Fab Libraryに採用した。

【0243】

【表8】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (8)

【0244】

【表9】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (9)

【0245】

(6-5)ライブラリの多様性増強のためのペプチドの挿入個所と長さの検討
実施例5において、各箇所においてGGS配列を用いてCD3(CD3ε)への結合を失うことなくペプチドを挿入できることが示された。Dual Fab Libraryにおいても、ループ延長が可能となれば、より多種類の分子が含まれる(多様性が大きいとも表現する)ライブラリとなり、多様な第2の抗原に結合するFabドメインの取得が可能になると考えられた。そこで、ペプチド挿入に伴って結合活性が低下することが予想されたため、CE115HA000配列にCD3εへの結合活性が高くなるようにV11L/D72A/L78I/D101Q改変を加えてpE22Hhを連結した配列に、実施例5と同様にGGSリンカーを挿入した分子を作製し、CD3結合を評価した。GGS配列は、Kabat numberingで99-100の間に挿入された。抗体分子は、One arm抗体として発現された。具体的には、GGSリンカーを含む前述のH鎖とKn010G3(配列番号:56)とL鎖としてGLS3000(配列番号:53)とKappa配列(配列番号:55)を連結した配列を採用し、参考実施例1に従って発現精製が行われた。

【0246】

(6-6)GGSペプチドを挿入したCE115抗体のCD3への結合確認
GGSペプチドを挿入した改変抗体のCD3εへの結合は実施例6に記載の方法でBiacoreを用いて実施された。その結果、表10に示すようにループ部位へのGGSリンカーの挿入が可能であることが明らかになった。特に抗原結合に重要であるH鎖CDR3領域にGGSリンカーを挿入することが可能であり、3,6,9アミノ酸のいずれの挿入でもCD3εへの結合が維持された。本検討ではGGSリンカーを用いて検討したが、GGSではなく各種アミノ酸が出現する抗体ライブラリであっても良いと考えられる。

【0247】

【表10】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (10)

【0248】

(6-7)NNS塩基を用いたH鎖CDR3へのライブラリ挿入の検討
(6-6)ではGGSリンカーを用いて3,6,9アミノ酸の挿入が可能であり、3,6,9アミノ酸を挿入したライブラリを作成して、通常のPhage display法に代表されるような抗体取得法を用いれば第2の抗原に結合する抗体を取得することが出来ると考えられた。そこで、CDR3への挿入が6アミノ酸である場合に、NNS塩基(各種アミノ酸が出現する)を用いて、6アミノ酸を挿入する部位に様々なアミノ酸が出現してもCD3との結合を保持するか検討した。結合活性の低下が予想されたことからCE115HA000よりもCD3ε結合活性が高いCE115HA340配列(配列番号:59)のCDR3中の99-100(Kabat numbering)の間に6アミノ酸が挿入されるようにNNS塩基を用いてプライマーが設計された。抗体分子は、One arm抗体として発現された。具体的には、前述の改変を含む含む前述のH鎖とKn010G3(配列番号:56)とL鎖としてGLS3000(配列番号:53)とKappa配列(配列番号:55)を連結した配列を採用し、参考実施例1に従って発現精製が行われた。取得された改変抗体は(6-3)に記載された方法で結合が評価された。その結果を表11に示す。アミノ酸を延長した部位に各種アミノ酸が出現した場合でも、CD3(CD3ε)への結合性が保持されることが明らかになった。さらに、非特異的結合が増強されるか否かを参考実施例2に示された方法で評価した結果を表12に示す。その結果、CDR3の伸長したループ内に正電荷を側鎖に持つアミノ酸が多く含まれるとECMへの結合が増強されることから、ループ内に3個以上の正電荷を側鎖に持つアミノ酸が出現しないことが望まれた。

【0249】

【表11】

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【0250】

【表12】

7512129 - 知財ポータルサイト『IP Force』 (12)

【0251】

(6-7)Dual Fab Libraryのデザインおよび構築
実施例6に記載の検討から、CD3と第2の抗原に結合する抗体取得のための抗体ライブラリ(Dual Fab Library)は以下の様にデザインされた。
ステップ1:CD3(CD3ε)結合能が保持されているアミノ酸(CD3結合量がCE115HA000の80%以上であること)を選択
ステップ2:ECM結合が改変前よりもMRAと比較して10倍以内であるアミノ酸を選択
ステップ3:H鎖CDR3の99-100(Kabat numbering)の間に6アミノ酸を挿入する
なお、ステップ1のみでもFabの抗原結合部位が多様化されるため、第2の抗原に結合する抗原結合分子を同定するライブラリになりうる。また、ステップ1と3のみでもFabの抗原結合部位が多様化されるため、第2の抗原に結合する抗原結合分子を同定するライブラリになりうる。ステップ2を経ないライブラリ設計であっても、取得された分子に対してECM結合を測定し、評価することができる。

【0252】

以上から、Dual Fab LibraryのH鎖はCE115HA000のFR(フレームワーク)にV11L/ L78I変異を加えた配列にCDRとして表13に示されるように多様化し、L鎖はGLS3000のCDRを表14に示されるよう多様化した。これらの抗体ライブラリ断片は当業者公知のDNA合成方法で当該ライブラリ断片を合成できる。Dual Fab libraryとして、(1)H鎖を表13に示したように多様化し、L鎖は元の配列GLS3000もしくは実施例6に記載されているCD3ε結合を増強したL鎖に固定したライブラリ、(2)H鎖を元の配列(CE115HA000)もしくは実施例6に記載されているCD3ε結合を増強したH鎖に固定し、L鎖を表14に示したように多様化したライブラリ、(3)H鎖を表13に示したように多様化し、L鎖を表14に示したように多様化したライブラリを作りうる。H鎖はCE115HA000のFR(フレームワーク)にV11L/ L78I変異を加えた配列にCDRとして表13に示されるように多様化したライブラリ配列をDNA2.0のDNA合成会社へ委託し、抗体ライブラリ断片(DNA断片)を取得した。取得した抗体ライブラリ断片は、PCR法で増幅されファージディスプレイ用ファージミドへ挿入された。この際、L鎖としてはGLS3000を選択した。さらに構築されたファージディスプレイ用ファージミドは大腸菌へエレクトロポレーション法で導入され、抗体ライブラリ断片を保有する大腸菌が作製された。

【0253】

【表13】

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【0254】

【表14】

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【0255】

〔実施例7〕Dual Fab LibraryからのCD3及び第2の抗原(IL6R)に結合するFabドメインの取得
(7-1)ヒトIL6Rに結合するFabドメインの取得
実施例6で設計および構築されたDual Fab libraryからヒトIL6Rに対して結合するFabドメイン(抗体断片)を同定した。抗原として、ビオチン標識されたヒトIL6Rを用いて、ヒトIL6Rに対して結合能をもつ抗体断片の濃縮を行った。
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAとなるようにBSAが添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。

【0256】

具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズはTBST(0.1%Tween20を含有するTBS, TBSはTaKaRa社製)にて3回洗浄された後、1 mLのTBSにてさらに2回洗浄された。その後、0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.5)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。このサイクルをパンニングと呼び、複数回繰り返した。なお、2回目以降のパンニングでは40pmolのビオチン標識抗原が使用された。また、4回目のパンニングでは、CD3への結合性を指標にファージの濃縮が行われた。具体的には、調製したファージライブラリ液に250pmolのビオチン標識CD3εペプチド抗原(アミノ酸配列配列番号:60)を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの0.1% Tween20含有TBSとTBSにて洗浄された。0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。トリプシン処理されたファージ溶液から回収されたファージが、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。
さらに、一つの大腸菌に対して複数のファージが感染することを防ぐため、5回目のパンニングにより回収されたファージを感染させた大腸菌より調製したファージライブラリ液について、再度100,000倍希釈したファージ液を大腸菌に感染させてシングルコロニーを得た。

【0257】

(7-2)ファージが提示したFabドメインとCD3またはIL6Rの結合(ファージ ELISA法)
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。終濃度4%BSAとなるようにBSAが加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原(ビオチン化CD3εペプチドもしくはビオチン化ヒトIL6R)を含む100μLのPBSにて4℃で一晩もしくは室温で1時間コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを室温で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。各ウェルをTBSTにて洗浄後、終濃度4%のBSAとしたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加して1時間インキュベートした。TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。その結果を図19に示す。#50および#62クローンはCD3εおよびヒトIL6Rに対して結合性を有することが示された。すなわち、Dual Fab Libraryを用いることで、第2の抗原(実施例7ではヒトIL6R)に対して結合性を示すクローンを選択することが出来た。さらに評価数を増やし、結合性を示すクローンを選定して、IgG化(クローンが持つVHおよびVL配列をヒトH鎖またはL鎖定常領域とそれぞれ連結すること)し、CD3εと第2の抗原(ヒトIL6R)への結合性を評価することができる。さらに、CD3εと第2の抗原(ヒトIL6R)が同時に結合するか否かが実施例3や4に記載の方法や競合法によって調べることができる。競合法は、例えばCD3εへの結合が、抗体単独のときよりも第2の抗原が存在する場合に低減することで、同時に結合しないことが示される。

【0258】

〔実施例8〕Dual Fab LibraryからのCD3及び第2の抗原(ヒトIgA)に結合するFabドメインの取得
(8-1)ヒトIgAに結合するFabドメインの取得
IgAは体内に豊富に存在する抗体のアイソタイプであり、腸や粘膜面での生体防御に関わる分子として知られており、FcαR(Fc alpha Receptor)に結合することが知られている(J. Pathol. 208: 270 -282, 2006)。
実施例6で設計および構築されたDual Fab libraryからヒトIgAに対して結合するFabドメイン(抗体断片)を同定した。抗原として、ビオチン標識されたヒトIgA(参考実施例3に記載されている。)を用いて、ヒトIgAに対して結合能をもつ抗体断片の濃縮を行った。
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAとなるようにBSAが添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズはTBST(0.1%Tween20を含有するTBS, TBSはTaKaRa社製)にて3回洗浄された後、1 mLのTBSにてさらに2回洗浄された。その後、0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.5)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。このサイクルをパンニングと呼び、4回繰り返した。なお2回目以降のパンニングでは、ヒトIgAは40pmolとした。

【0259】

(8-2)ファージが提示したFabドメインとCD3またはヒトIgAの結合
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。終濃度4%BSAとなるようにBSAが加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原(ビオチン標識CD3εペプチドもしくはビオチン標識ヒトIgA,参考実施例3)を含む100μLのPBSにて4℃で一晩もしくは室温で1時間コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの0.1xTBS/150mM NaCl/0.02% Skim Milkにてブロッキングされた。0.1xTBS/150mM NaCl/0.02% Skim Milkが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを室温で1時間静置することによって、ファージが提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。各ウェルを0.1xTBS/150mM NaCl/0.01% Tween20にて洗浄後、0.1xTBS/150mM NaCl/0.01% Tween20によって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加して1時間インキュベートした。TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。その結果を図20に示す。図20に示すように、CD3およびヒトIgAに結合するクローンが存在することが示され、Dual Fab Libraryを用いることで、第2の抗原(実施例8ではヒトIgA)に対して結合性を示すクローンを選択することが出来た。

【0260】

(8-3)取得したFabドメインを有するIgGのCD3またはヒトIgAとの結合
(8-2)でCD3とヒトIgAに結合することが示されたクローンに対して、その配列を有する大腸菌からDual Fab LibraryのH鎖に特異的に結合するプライマーを用いて、PCR法によってVH断片を増幅した。増幅したVH断片は参考実施例1の方法でpE22Hhが組み込まれた動物細胞発現用のプラスミドに組み込まれ、実施例6(6-2)と同様にOne arm抗体として発現・精製された。クローン名とH鎖配列の配列番号は表15に示されている。すなわち、表15に示されたH鎖とKn010G3(配列番号:56)とL鎖としてGLS3000(配列番号:53)とKappa配列(配列番号:55)を連結した配列を採用し、参考実施例1に従って発現精製が行われた。

【0261】

【表15】

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【0262】

取得されたFab領域を持つ抗体分子がCD3ε、ヒトIgAと結合するかどうか、電気化学発光法(ECL法)で判定した。具体的には、TBST溶液(TaKaRa社製 TBSに0.1% Tween20を加えたもの)で希釈したビオチン標識CD3εペプチド(実施例7に記載)またはビオチン標識ヒトIgA(参考実施例3)と、2 μg/mLに調製された抗体溶液と、sulfo-tagを付加した抗ヒトIgG抗体(Invitrogen #628400)を、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに25 μLずつ添加し、混合した後、遮光しながら室温で1時間以上インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBST溶液(ブロッキング溶液と表記する)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて室温で1時間以上インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBS(-)溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を50μLずつ各ウェルに添加し、室温1時間インキュベートして、ビオチン化抗原―抗体―検出用sulfo-tag抗体の複合体溶液をビオチン化抗原を介してstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBST溶液で3回洗浄し、4xREAD buffer(MSD)を水で2倍希釈した溶液を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0263】

その結果を図21に示す。ファージELISAで結合が認められたクローンから、一部のアミノ酸変異を含むものを含めてIgG化したところ、ファージELISAで結合が認められた配列はIgGとなってもCD3εおよびヒトIgAと結合することが示された。
この結果から、Dual Fab libraryから、第2の抗原と結合する抗体が取得可能であり、通常ファージライブラリを用いたパンニングではFabドメインのみであるが、Fc領域を含むIgGとなっても結合が認められるクローンの濃縮が可能であることが示された。したがって、Dual Fab Libraryは、CD3との結合能を保持しながら第2の抗原との結合能を有するFabドメインを取得することができるLibraryだといえた。

【0264】

(8-4)取得したFabドメインを有するIgGのCD3(CD3ε)及びヒトIgAとの同時結合の評価
(8-3)において、Dual Fab Libraryから得られたクローンがIgGとなっても結合を有することが示された。次に、得られたIgGがCD3(CD3ε)及びヒトIgAと同時に結合するかを競合法(電気化学発光法(ECL法))で判定した。CD3(CD3ε)及びヒトIgAと同時に結合する場合は、IgAと結合している抗体にCD3(CD3ε)を加えてもECLシグナルは変化しないが、同時結合できない場合には、CD3(CD3ε)を加えると一部の抗体がCD3(CD3ε)と結合してECLシグナルが低下するはずである。

【0265】

具体的には、TBST溶液で希釈したビオチン化ヒトIgA 25μLと、1 μg/mLに調製された抗体溶液12.5μLと、TBSTもしくは競合させるためのCD3εホモ二量体タンパク質(9.4pmol/μL)12.5μLと、sulfo-tagを付加した抗ヒトIgG抗体(Invitrogen #628400)25μLをNunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに添加し、混合した後、遮光しながら室温で1時間以上インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBST溶液(ブロッキング溶液と表記する。TBST溶液はTaKaRa社製のTBSに0.1%Tween20を加えたもの)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて室温で1時間以上インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBST溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を50μLずつ各ウェルに添加し、室温1時間インキュベートして、ビオチン化抗原―抗体―検出用sulfo-tag抗体の複合体溶液をビオチン化抗原を介してstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBST溶液で3回洗浄し、4xREAD buffer(MSD)を水で2倍に希釈した溶液を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0266】

その結果を図22に示す。競合させるためのCD3εホモ二量体タンパク質を加えた場合、TBSTを加えた場合と比較してECLシグナルの低下が認められた。この結果から、本検討で見出されたCD3とヒトIgAに結合する分子は、CD3に結合するとヒトIgAに結合できないDual Fab分子であることが示された。この結果から、Dual Fab libraryから、第2の抗原との結合能を有する抗体が取得可能であり、その中に、CD3と結合すると第2の抗原と結合できない(もしくは第2の抗原と結合するとCD3と結合できない)という、複数種の抗原と同時には結合できないDual Fab分子の取得が可能であることが示された。

【0267】

当業者であれば(8-2)でファージを用いた結合活性評価から結合分子が見出されれば、評価数を多くすることによって結合分子の配列のバラエティーを増やすことができることが自明であるので、以上からDual Fab Libraryは、CD3に対する結合能を保持しながら第2の抗原との結合能を有するFabドメインを取得することができるLibraryだといえる。また、本実施例ではH鎖のみを多様化させたDual Fab Libraryを用いたが、通常ライブラリサイズ(多様性とも呼び、ライブラリ中に多様な配列が含まれることを意味する)が大きい方が、より抗原結合分子を取得することができるため、L鎖も多様化させたDual Fab Libraryも本実施例で示されたことと同様に、Dual Fab分子取得に用いることができる。

【0268】

実施例8に示された様にDual Fab分子を作ることができれば、第3の抗原に結合するFabや抗原結合ドメインを当業者公知の方法、例えばハイブリドーマ法や抗体ライブラリからの結合抗体(もしくは結合ドメイン)の選抜方法、を用いて同定することが可能であり、同定された第3の抗原に結合する抗原結合ドメイン(例えばFab)とDual Fab分子のFabドメインを持つ抗体は当業者公知の多重特異性抗体の作製方法、例えばL鎖を共通化して2本のH鎖が異なる抗体を作る方法(Fc領域の各ドメインの界面を制御する技術)、Cross Mab法、Fab Arm Exchange法、によって多重特異性抗体を取得することができる。すなわち、Dual Fab分子が同定できれば、当業者公知の方法によって第3の抗原に結合するFabと実施例8で示された第1と第2の抗原に結合するDual Fabを組み合わせて、所望の多重特異性抗体を取得することができる。

【0269】

(8-5)CD3/ヒトIgA Dual Fab分子について
実施例8において、CD3εおよびヒトIgAに結合し、CD3εとヒトIgAが同時に結合しないDual Fab分子が得られることが示された。さらに第3の抗原と結合する抗原結合ドメインを付加することも当業者公知の方法で実施可能である。
近年、癌抗原の一つであるEGFRに結合するように改変されたIgA分子がEGFRを発現している癌細胞に細胞死を誘導することが示された(J Immunol 2007; 179:2936-2943)。このメカニズムとしてIgAのレセプターであるFcαRがPolymorphonuclear cellに発現しており、癌細胞にオートファジーを誘導することが報告された(J Immunol 2011; 187:726-732)。本実施例でCD3とIgAに結合するDual Fab分子が構築できることが明らかになったが、IgAを介してFcαRと結合する分子を当業者公知の方法(例えばELISAやECL法)で探索すれば、FcαRを介した抗腫瘍効果が期待できる。すなわち、本Dual Fabは、任意の第3の抗原が発現している細胞に、CD3εとの結合でT細胞による細胞傷害活性と、IgAとの結合を介してFcαRが発現している細胞による細胞傷害活性の両方を誘導することが可能であり、強い細胞傷害活性が期待できる。

【0270】

〔実施例9〕Dual Fab LibraryからのCD3及び第2の抗原(ヒトCD154)に結合するFabドメインの取得
(9-1)ヒトCD154に結合するFabドメインの取得
実施例6で設計および構築されたDual Fab libraryからヒトCD154に対して結合するFabドメイン(抗体断片)を同定した。抗原として、ビオチン標識されたヒトCD154を用いて、ヒトCD154に対して結合能をもつ抗体断片の濃縮を行った。
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAとなるようにBSAが添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズはTBST(0.1%Tween20を含有するTBS, TBSはTaKaRa社製)にて3回洗浄された後、1 mLのTBSにてさらに2回洗浄された。その後、0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.5)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。このサイクルをパンニングと呼び、5回繰り返した。なお2回目以降のパンニングでは、ヒトCD154は40pmolとした。

【0271】

(9-2)ファージが提示したFabドメインとCD3またはヒトCD154の結合
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。終濃度4%BSAとなるようにBSAが加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原(ビオチン標識CD3εペプチド、ビオチン標識CD154)を含む100μLのPBSにて4℃で一晩もしくは室温で1時間コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの0.1xTBS/150mM NaCl/0.02% Skim Milkにてブロッキングされた。0.1xTBS/150mM NaCl /0.02% Skim Milkが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを室温で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。各ウェルを0.1xTBS/150mM NaCl/0.01% Tween20にて洗浄後、0.1xTBS/150mM NaCl/0.01% Tween20によって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を添加して1時間インキュベートした。TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。その結果を図23に示す。図23に示すように、CD3およびCD154に結合するクローンが存在することが示され、Dual Fab Libraryを用いることで、第2の抗原(実施例9ではヒトCD154)に対して結合性を示すクローンを選択することが出来た。また、実施例7,8,9で示したように異なる3つの抗原に対して、結合Fabドメインが取得できることから、Dual Fab Libraryが第2の抗原と結合する分子を取得するためのライブラリとして機能することが示された。

【0272】

(9-3)取得したFabドメインを有するIgGのCD3またはヒトCD154との結合
(9-2)でCD3とヒトCD154に結合することが示されたクローンに対して、その配列を有する大腸菌からDual Fab LibraryのH鎖に特異的に結合するプライマーを用いて、PCRによってVH断片を増幅した。増幅したVH断片は参考実施例1の方法でpE22Hhが組み込まれた動物細胞発現用のプラスミドに組み込まれ、実施例6(6-2)と同様にOne arm抗体として発現・精製された。取得された配列名とH鎖配列の配列番号は表16に記載されている。具体的には、表16に記載されているH鎖とKn010G3(配列番号:56)とL鎖としてGLS3000(配列番号:53)とKappa配列(配列番号:55)を連結した配列を採用し、参考実施例1に従って発現精製が行われた。

【0273】

【表16】

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【0274】

(9-2)でCD3とヒトCD154に結合することがファージELISA法で示されたFab領域を持つ抗体分子がCD3、ヒトCD154と結合するかどうか、電気化学発光法(ECL法)で判定した。具体的には、TBST溶液で希釈したビオチン化CD3またはビオチン化ヒトCD154 25μLと、2 μg/mLに調製された抗体溶液25μLと、sulfo-tagを付加した抗ヒトIgG抗体(Invitrogen #628400)25μLを、Nunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに添加し、混合した後、遮光しながら室温で1時間以上インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBST溶液(ブロッキング溶液と表記する。TBST溶液はTaKaRa社製のTBSに0.1%Tween20を加えたもの)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて室温で1時間以上インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBST溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を50μLずつ各ウェルに添加し、室温1時間インキュベートして、ビオチン化抗原―抗体―検出用sulfo-tag抗体の複合体溶液をビオチン化抗原を介してstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBST溶液で3回洗浄し、4xREAD buffer(MSD)を水で2倍に希釈した溶液を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0275】

その結果を図24に示す。ファージELISAで結合が認められたクローンから、一部のアミノ酸変異を含むものを含めてIgG化したところ、ファージELISAで結合が認められた配列はIgGとなってもCD3εおよびヒトCD154と結合することが示された。
この結果から、Dual Fab libraryから、第2の抗原と結合する抗体が取得可能であり、通常ファージライブラリを用いたパンニングではFabドメインのみであるが、Fc領域を含むIgGとなっても結合が認められるクローンの濃縮がヒトIgAだけでなくヒトCD154でも可能であることが示された。したがって、Dual Fab Libraryは、CD3との結合能を保持しながら第2の抗原との結合能を有するFabドメインを取得することができるLibraryだといえる。

【0276】

(9-4)取得したFabドメインを有するIgGのCD3ε及びヒトCD154との同時結合の評価
(9-3)において、Dual Fab Libraryから得られたクローンがIgGとなっても結合を有することが示された。次に、得られたIgGがCD3及びヒトCD154と同時に結合するかを競合法(電気化学発光法(ECL法))で判定した。CD3及びヒトCD154と同時に結合する場合は、CD154と結合している抗体にCD3を加えてもECLシグナルは変化しないが、同時結合できない場合には、CD3を加えると一部の抗体がCD3と結合してECLシグナルが低下するはずである。

【0277】

具体的には、TBST溶液で希釈したビオチン化ヒトCD154 25μLと、1 μg/mLに調製された抗体溶液12.5μLと、TBSTもしくは競合させるためのCD3εホモ二量体タンパク質(9.4pmol/μL)12.5μLと、sulfo-tagを付加した抗ヒトIgG抗体(Invitrogen #628400)25μLをNunc-Immuno(tm) MicroWell(tm) 96 well round plates(Nunc)の各ウェルに添加し、混合した後、遮光しながら室温で1時間以上インキュベートし、抗体抗原複合体を形成させた。0.5%BSAを含むTBST溶液(ブロッキング溶液と表記する。TBST溶液はTaKaRa社製のTBSに0.1%Tween20を加えたもの)をstreptavidin plate(MSD)各ウェルに150μLずつ加えて室温で1時間以上インキュベートした。ブロッキング溶液を除いた後、TBST溶液250μLで3回洗浄した。抗体抗原複合体溶液を50μLずつ各ウェルに添加し、室温1時間インキュベートして、ビオチン化抗原―抗体―検出用sulfo-tag抗体の複合体溶液をビオチン化抗原を介してstreptavidin plateに結合させた。抗体抗原複合体溶液を除いた後、TBST溶液で3回洗浄し、4xREAD buffer(MSD)を水で2倍に希釈した溶液を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0278】

その結果を図25に示す。競合させるためのCD3εホモ二量体タンパク質を加えた場合、TBSTを加えた場合と比較してECLシグナルの低下が認められた。この結果から、本検討で見出されたCD3εとヒトCD154に結合する分子は、CD3に結合するとヒトCD154に結合できないDual Fab分子であることが示された。この結果から、Dual Fab libraryから、第2の抗原と結合する抗体が取得可能であり、その中に、CD3と結合すると第2の抗原と結合できない(もしくは第2の抗原と結合するとCD3と結合できない)という、複数種の抗原と同時には結合できないDual Fab分子の取得が可能であることが示された。

【0279】

当業者であれば(9-2)でファージを用いた結合活性評価から結合分子が見出されれば、評価数を多くすることによって結合分子の配列のバラエティーを増やすことができることが自明であるので、以上からDual Fab Libraryは、CD3との結合能を保持しながら第2の抗原との結合能を有するFabドメインを取得することができるLibraryだといえる。また、本実施例ではH鎖のみを多様化させたDual Fab Libraryを用いたが、通常ライブラリサイズ(多様性とも呼び、ライブラリ中に多様な配列が含まれることを意味する)が大きい方が、より抗原結合分子を取得することができるため、L鎖も多様化させたDual Fab Libraryも本実施例で示されたことと同様に、Dual Fab分子取得に用いることができる。

【0280】

実施例9に示された様にDual Fab分子を作ることができれば、第3の抗原に結合するFabや抗原結合ドメインを当業者公知の方法、例えばハイブリドーマ法や抗体ライブラリからの結合抗体や抗原結合ドメインの選抜方法、を用いて同定することが可能であり、同定された第3の抗原に結合する抗原結合ドメイン(例えばFab)とDual Fab分子のFabドメインを持つ抗体は当業者公知の多重特異性抗体の作製方法、例えばL鎖を共通化して2本のH鎖が異なる抗体を作る方法(Fc領域の各ドメインの界面を制御する技術)、Cross Mab法、Fab Arm Exchange法、によって多重特異性抗体を取得することができる。すなわち、Dual Fab分子が同定できれば、当業者公知の方法によって第3の抗原に結合するFabと実施例9で示された第1と第2の抗原に結合するDual Fabを組み合わせて、所望の多重特異性抗体を取得することができる。以上の実施例から、多種類の抗原に対してDual Fab libraryを適応することでCD3εと第2の抗原に結合する分子が取得できることが示され、さらに実施例8と9で第1の抗原(CD3ε)および第2の抗原に結合するが、第1の抗原と第2の抗原が同時に結合しない分子が取得できることが明らかとなった。前述の様に第3の抗原に結合するFabを同定することは当業者公知の方法で可能であることから、Dual Fabライブラリを用いることで、実施例1に記載した所望の抗体を得ることができる。

【0281】

(9-5)CD3/ヒトCD154 Dual Fab分子について
実施例9において、CD3εおよびヒトCD154に結合し、CD3εとヒトCD154が同時に結合しないDual Fab分子が得られることが示された。さらに第3の抗原と結合する抗原結合ドメインを付加することも当業者公知の方法で実施可能である。
近年、CD154のレセプターであるCD40のアゴニスト抗体が癌抗原反応性のT細胞を移入する方法において抗腫瘍活性を増強することが示された(J Immunother. 2012 Apr;35(3):276-82.)。本実施例でCD3とCD154に結合するDual Fab分子が構築できることが明らかになったが、CD154を介してCD40に対してアゴニスト活性を示す抗体を選定すれば、CD40を介した抗腫瘍効果が期待できる。すなわち、本Dual Fabは、任意の第3の抗原が発現している細胞に、CD3εとの結合でT細胞による細胞傷害活性と、CD154との結合を介してCD40のアゴニストシグナルによる抗腫瘍効果の増強が期待できる。

【0282】

〔参考実施例〕
〔参考実施例1〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit (TAKARA)等を用いて当業者公知の方法で行い、発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。

【0283】

〔参考実施例2〕抗体のECM(Extracellular matrix、細胞外マトリックス)結合評価
抗体のECM(Extracellular matrix)への結合評価はWO2012093704A1を参考に以下の手順で実施された。ECM Phenol red free(BD Matrigel #356237)をTBSで2mg/mLに希釈し、氷上で冷やしたECL測定用プレート(L15XB-3、MSD high bind)の各ウエルの真ん中に5μL滴下した。その後、プレートシールで蓋をして4℃で一晩静置した。ECMを固相化したプレートを室温に戻し、ECL Blocking Buffer(PBSに0.5%BSAおよび0.05%Tween 20を加えたもの)150μLを各ウエルに加えて、室温で静置2時間以上もしくは4℃で一晩静置した。次に、PBS-T(PBSに0.05%Tween 20を加えたもの)を用いて抗体サンプルを9μg/mLに希釈した。2次抗体をECLDB(PBSに0.1%BSAおよび0.01%Tween 20を加えたもの)で2μg/mLに希釈し、ECLDBが10μLずつ各ウエルに分注されている丸底プレートへ、抗体溶液20μL、2次抗体溶液30μLを加えて、遮光下室温で1時間攪拌した。ECL Bloking Bufferが入ったECMプレートから、ECL Blocking Bufferを転倒除去し、このプレートへ、前述の抗体・二次抗体の混合溶液を50μLずつ加えた。その後遮光下室温で1時間静置した。サンプルを転倒除去後、READ buffer(MSD)を各ウェルに150μLずつ加え、Sector Imager 2400(MSD)でsulfo-tagの発光シグナルを検出した。

【0284】

〔参考実施例3〕ヒトIgAの調製
ヒトIgAとして天然に存在するヒトIgA配列のうちFc部分を用いた(ヒトIgA-Fc)。ヒトIgA-FcのC末端にbiotinを付加するためビオチンリガーゼによってビオチンが付加される特異的な配列(AviTag配列、配列番号:79)をコードする遺伝子断片をリンカーを介して連結させた。ヒトIgA-FcとAviTag配列が連結されたタンパク質(配列番号:80)をコードする遺伝子断片を動物細胞発現用ベクターに組み込み、構築されたプラスミドベクターを293Fectin (Invitrogen)を用いてFreeStyle293細胞 (Invitrogen)に導入した。このときEBNA1(配列番号:81)を発現する遺伝子およびビオチンリガーゼ(BirA、配列番号:82)を発現する遺伝子を同時に導入し、さらにヒトIgA-Fcをビオチン標識する目的でビオチンを添加した。前述の手順に従って遺伝子が導入された細胞を37℃、8% CO2で6日間培養し、目的のタンパク質を培養上清中に分泌させた。
目的のヒトIgA-Fcを含む細胞培養液を0.22μmボトルトップフィルターでろ過し、培養上清を得た。20 mM Tris-HCl, pH7.4で平衡化されたHiTrap Q HP (GEヘルスケア)に、同溶液で希釈された培養上清をアプライし、NaClの濃度勾配により目的のヒトIgA-Fcを溶出させた。次に、50 mM Tris-HCl, pH8.0で平衡化されたSoftLink Avidin カラム(Promega)に、同溶液で希釈された前記HiTrap Q HP溶出液をアプライし、5 mM ビオチン, 150 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl, pH8.0で目的のヒトIgA-Fcを溶出させた。その後、Superdex200(GEヘルスケア)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、目的外の不純物である会合体を除去し、バッファーが20 mM Histidine-HCl, 150 mM NaCl, pH6.0に置換された精製ヒトIgA-Fcを得た。

【産業上の利用可能性】

【0285】

本発明により、抗原結合分子により生じる活性を増強させることが可能となるとともに、副作用の原因となると考えられる、異なる細胞上で発現している抗原への結合によって生じる当該異なる細胞間の架橋を回避することが可能となり、医薬品として適したポリペプチドが提供される。

図1

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図2

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図3

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図4

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図5

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図6

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図7

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図8

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図9

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図10

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図13

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図15

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図17

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図21

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図22

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図24

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図25

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【配列表】

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Name: Arielle Torp

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Job: Central Technology Officer

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